『アマチュア』倒すべき敵より強いのは、知力とこの復讐心のみ。

2025.07.28

この映画は、つまり―

新鮮な味わいの「復讐もの」
『マトリックス』と『007』をリアルにやるとこうなる？
徹底してアンチカタルシス。だけど……

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『アマチュア』

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文：屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

「復讐もの」の映画は人気がある。なぜか。それは圧倒的に“気持ち良い”からだろう。そういった作品では、大抵序盤に主人公や周りのキャラクター(と同時に観客)に甚大なダメージが与えられる。このしょっぱい不快感が、甘い復讐の味をさらに引き立てるのだ。悲劇の後はどのように敵を美味しく料理していくかをひたすらに描けば良い。その味は我々の脳みそを直接刺激し、快楽物質で満たす。出されたのがまだ血が大量に滴る肉だとしても、むしろ一部の観客はよだれを垂らして喜ぶ(筆者のことだ)。しかし、本作『アマチュア』はそういった“人殺し賛美映画”……もとい、普通のハリウッドアクション映画とは一線を画している。徹底的にアンチカタルシス、安易に観客を気持ち良くさせない作りになっており、それが本作独特の味わいに繋がっている。

主人公は、ラミ・マレック演じる頭脳明晰なCIA分析官のチャーリー。マレックがブレイクした『Mr. Robot/ミスター・ロボット』でのイメージをなぞるように、PCを使えばハッキングできないものはない。そう、チャーリーにかかれば、この世に“秘密”など存在しないのだ。例え相手が国家だったとしても……。そしてチャーリーは持ち前の正義感に突き動かされ、CIA上層部の陰謀を明るみに……というストーリーになりそうなところが、そうはならない。ある日突然、テロによってチャーリーの最愛の妻サラが殺されてしまい、彼は強い復讐心を抱く。しかしデスクワーク専門のチャーリーには戦闘経験も、ましてや殺しの技術もない。そこで彼が上層部を脅迫して行わせたのは、何と自身の特訓だったのだ！

設定からして不思議な作品である。チャーリーを鍛えるのは、ローレンス・フィッシュバーン演じるヘンダーソン教官。ハッカーに戦い方を指南する役は、もちろん『マトリックス』のモーフィアス以外にあり得ないというわけだ(名前もアンダーソンっぽいし……ってそれはキアヌ・リーヴスの方か)。ところが、本作はここでもよくある展開を外してくる。チャーリーの戦いの才能は結局全く開花しないのだ！　殺しの腕もなく、殺しの報酬も受け取らないアマチュア。その代わり、直接的にでなく間接的に相手を倒す頭脳プレーのアイディアを得て、チャーリーはテロリストたちを少しずつ追い詰めていく。自分も追いかけられている側だとは知らずに……。

マレックは以前、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でスパイのジェームズ・ボンドを苦しめるテロリストのサフィンを演じた。これがカルマというやつなのか。しかしマレックがスパイを演じるとダニエル・クレイグとここまで別物になるとは。実際にテロリストを倒すシーンですら、その辺のアクション映画なら当たり前に備えているサディスティックな快感とは無縁だ。さて、ここまで強調されると果たして面白いのか不安になるだろうが、本作にカタルシスはちゃんとある。復讐の形は人それぞれなのだ。……ちなみにサラを演じているのは絶賛公開中の『スーパーマン』でロイス・レイン役のレイチェル・ブロズナハンで、確かに序盤で亡くなるがチャーリーの空想の中で何度も登場してくれる。彼女とマレックのファンは特に要チェックだろう。

【ストーリー】
新たなるスパイアクション・サスペンス誕生！　CIA最高のIQを持つが、殺しは“アマチュア”の分析官チャーリーは、たった一人で妻の命を奪った国際テロ組織への復讐に挑む。CIAすらも予測できない方法で、テロリストたちを追い詰めていくが、その裏には驚くべき陰謀が隠されていた……。スパイ映画史上最も無謀で予測不能な復讐劇の驚くべき結末とは!?

【キャスト】
ラミ・マレック、レイチェル・ブロズナハン、ローレンス・フィッシュバーン、カトリーナ・バルフ、ジョン・バーンサル　他

【スタッフ】
監督：ジェームズ・ホーズ

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