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『レベル・リッジ』この世は弱肉強食。弱者のおかげで強者が生き延びる。

この映画は、つまり―
  • 死人もほとんど出ない静かな、しかし骨太な復讐サスペンス・アクション
  • 頼るべき警察が腐りきっていたら?
  • 弱くとも気高く生きるべし

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◆配信中の注目作

『レベル・リッジ』(2024)

Netflixで視聴する⇒こちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

サスペンス映画を多く見ていると、信用できなくなる職種がある。それは警察官だ! 待った逮捕しないでほしい。分かっている。映画と現実は別だ(大抵は)。世の(大多数の)警官は真っ当に仕事をしているものと信じている。だが、現実にも警察の汚職はあるわけで、いつ自分がそれに巻き込まれないとも限らない。映画は、人生に起こり得る様々な出来事の脳内予行演習をさせてくれる。本作の主人公が巻き込まれる事態が日本でも起こるかはさておき、パターンを知っておいて損はない。イメトレが大事だ。脳の筋トレが。

パターン1。主人公、元海兵隊員の屈強な黒人男性テリー。冒頭、彼は両耳イヤホンでメタルを聴きながら自転車で気持ち良く走行し、知らぬ間に後ろのパトカーの進路を塞ぎ続ける。これは良くない。いくらメタルファンだとしても。ところが、わざとパトカーに衝突・転倒させられ、白人警官に銃で威嚇されながら持ち物検査される。そして、従兄弟を保釈させるために持ってきた大金の出どころを怪しまれ、押収されてしまう。麻薬絡みの金ではないかという、黒人への偏見を理由にだ。

パターン2。テリーに同情する弁護士志望の白人女性サマー。彼女は裁判所で働いているが、過去に人には言えない行いをしてしまったようだ。確かにこれも良くない。だが、警察の横暴に反発するテリーに協力し、小さな町シェルビー・スプリングスが抱える闇を暴こうとしたことでキャリアと人生を潰されかける(ちなみに、サマー役のアナソフィア・ロブは『チャーリーとチョコレート工場』でガムばかり食べていたあの子だ)。

腐敗した警察にかかれば、罪があろうとなかろうと、ひとつの弱みがあればチェック(王手)、さらに善意があればチェックメイト(詰み)される。本来、権力を持つ強者は、弱者という名の圧倒的多数派に囲まれている一握りの少数派に過ぎない。とは言え多くの場合、1対1では弱者は強者に食い物にされるだけだし、弱者の多くは権力に歯向かう他の弱者の仲間をしない。それが強者をより肥え太らせてしまうのだが、悲しいかな世界はそうやって回っている。

……というのは現実の話。現実と映画は別である。テリーは頭が切れ鍛えた肉体も持っているので、警察への復讐を開始する。……が、アメリカ映画では珍しいことに銃がほとんど活躍しない。テリーは近接格闘のスペシャリストという設定で、相手から銃を奪い無効化していくアクションが主になっているためだ。地味と言えば地味ながら痛みがリアルに伝わってくるので、骨太サスペンスである本作には非常に良くマッチしている。何より、骨抜き野郎どもをスカッとブチのめす手段としてちょうど良い。

いやしかし、実際に警察に目をつけられた時に腕力を振るっていては人生が終わってしまうので、別の教訓を持ち帰る必要があるだろう。相手のやり方をそのまま返すのが効果的だ。即ち、証拠を押さえること。弱者であろうとも、背中を丸めて生きる道理はない。さあ、まずは体より先に脳の筋トレを始めよう。

【ストーリー】
元海兵隊員の男は、従兄弟を保釈するために準備した現金の入った袋を警察に不当に押収されてしまう。小さな町にはびこる腐敗に立ち向かう男の運命はいかに。

【キャスト】
アーロン・ピエール、ドン・ジョンソン、アナソフィア・ロブ、デヴィッド・デンマン、エモリー・コーエン、ジェームズ・クロムウェル、スティーヴ・ジシス、ジャネイ・ジェイ、ダナ・リー 他

【スタッフ】
監督・脚本:ジェレミー・ソルニエ

 

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