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『ロスト・ドーター』 母親≠聖人。女優マギー・ギレンホールの監督デビュー作にして、静かなる意欲作。

この映画は、つまり―
  • 人気俳優ジェイク・ギレンホールの姉であり、自身も女優のマギー・ギレンホール監督作品
  • ベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞受賞!
  • 母性とは何か。特に子どもを持つ母親に観てほしい一作

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◆配信中の注目作 
『ロスト・ドーター』

Netflixで視聴するこちら

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

映画をある程度観ている方であれば、ジェイク・ギレンホールの名を聞いたことがあるだろう。少なくとも、顔くらいはどこかで目にしているはずだ。最近だとマーベルの『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でヴィランのミステリオを演じていた。では、クリストファー・ノーラン監督がDCコミックスのヒーロー、バットマンを描いた『ダークナイト』で、バットマンの思い人レイチェルを演じていた人物を覚えているだろうか? 彼女がジェイクの姉で、本作の監督・脚本を務めたマギー・ギレンホールである。

ジェイクほど多くの作品に出演していないが、マギーは本作で初めて長編映画の監督・脚本を務め、いきなりベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞に輝いた。原作は、そのペンネームは世界的に有名だが、顔と本名が明らかになっていないイタリア人作家エレナ・フェッランテの著作。フェッランテは、女性が監督しなければ映画化させないつもりだったと語っている。本作はエンタメ的ではなく静的なアート作品なので一見地味ではあるが、扱っているテーマはなかなか挑戦的なものだ。

『女王陛下のお気に入り』でアカデミー主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマン演じる大学教授のレダは、休暇でギリシャに滞在している。ビーチで見かけた若い母親の娘(ドーター)が行方不明(ロスト)になり、彼女らと関わる中でレダは自分の娘たちの記憶を回想する。娘たちはすでに成人しているようだが、レダが思い出すのは幼い娘の姿ばかりだ。しかもその思い出を覗くと、あまり幸せそうではない。レダに限らず、本作に登場する母親は皆幸せそうでない。

「子どもがいれば、それだけで幸せ」とか、「子どもを産めば人生が変わる」なんてよく聞くが、本当にそうなのだろうか? 若かりし頃のレダは、決して「完璧な母親」ではなかった。いや、そもそも完璧な人間などいない。しかし、母親という存在はいつでも完璧を求められる。いつでも育児に積極的でなければならない。劇中で、ジュディ・ガーランドの歌う「Hello Bluebird」という曲がかかる。ご存じ、青い鳥は身近にある幸せの象徴だが、実際にかごの鳥なのは世の母親たちではないのか?

この話を書いたエレナ・フェッランテが匿名性の高い人物であるというのは、面白い偶然だ。むしろ、必然なのかも知れない。「匿名」を意味する「アノニマス(anonymous)」は、ギリシャ語の「名前のない」が語源だ。これは名もなき全ての母親が自分を主人公として語るための、そして人生の迷子(ロスト)になってしまった母親自身を見つけ出すための物語である。もしかしたら、男性には本当の意味では理解し得ない内容なのかも知れないが、自分と全く違う人物の気持ちに寄り添えるのが映画の醍醐味だ。“母性”の幻想に囚われた全ての人が見るべき一作である。

【ストーリー】
海辺の町を訪れたひとりの女性。近くの別荘に滞在する若い母親の姿を目で追ううちに自らの過去の記憶がよみがえり、穏やかな休暇に不穏な空気が漂い始める。

【キャスト】
オリヴィア・コールマン、ジェシー・バックリー、ダコタ・ジョンソン

【スタッフ】
監督・脚本:マギー・ギレンホール

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