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【今週公開の注目作】『億万長者の不都合な終末』金持ちなんて食うんじゃない。ばっちいから!

◆今週公開の注目作

『億万長者の不都合な終末』
6月19日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

物語の中で、いや現実においても、往々にして金持ちは悪役と見なされる。アメリカでは上位1%の人々が全体の富の30%を保有し、下位50%の人々は全体の富の3%も保有していないというデータもあり、そのあまりにも大きな貧富の差に大半の人間は良い印象を持ちにくいだろう。マタイによる福音書に、「持つ者はさらに与えられ豊かになるが、持たざる者は持っている物すら取り上げられる」とある。チャンスの不平等によって金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏になっていくこのマタイ効果により、格差はますます広がっていく。本当に由々しき問題だ。金持ちに対する大衆の感情が羨望から嫉妬へ、嫉妬から憎悪へと至ったとしても無理からぬ土壌ができ上がってしまっていると言える。

ゾンビ映画などを見ていても、金に物を言わせて自分だけ助かろうとする金持ちは大抵悲惨な最期を迎える。マリー・アントワネットが「パンがなければケーキ(ブリオッシュ)を食べれば良いじゃない」と言ったとか言わないとか言われているが、フランス革命時にはジャン=ジャック・ルソーが「民衆の食べる物がなくなった時、彼らは金持ちを食べるだろう」と言ったとか言わないとか言われている。このフレーズの抜粋である“イート・ザ・リッチ”は、数世紀後にゾンビ映画において文字通りに実現したわけだ。金の亡者を大勢で貪り食う生ける屍の姿は、その非現実的な見た目に反して不思議なリアリティを感じさせる。

本作『億万長者の不都合な終末』も貧富の差を描いた作品だが、ゾンビ映画とは異なる方向で寓話的に描かれている。原題『Rich Flu(金持ちインフルエンザ)』の通り、現代の惨状を見るに見かねた神の思し召しか、金持ちだけに感染する致死性の奇病が流行し世界中がてんやわんやになっていくのだ。選ばれし者はホワイトニングしたかのように歯が眩く輝き、“リッチフルエンザ”なる神のライトニングに撃たれ死に至る。金はもはやウィルスと同じだ。輝かしいキャリアを持つ成功者たちが、一瞬にして汚らわしいキャリア(保菌者)と化す。このバカバカしくも恐ろしい恐慌状態が本格化していく中で、金持ちたちは一計を案じる。「もしかして、富を手放せば助かるのではないか」?

本作の主人公である、夫と親権争いをしながらも娘に十分構わない利己的な映画プロデューサーのローラ・パーマーは、ここ最近見た映画の中でもずば抜けて好感度が低い。大出世のチャンスが迫ったタイミングで起きたこのパンデミックを生き抜くため彼女が取る行動は、本当に目も当てられないものばかりだ。ブラックコメディとも評される本作だが、正直もう笑えない領域にまで来ている。監督のガルダー・ガステル=ウルティアは、同じく貧富の差をテーマにし、食料の分配問題として語ったスタイリッシュなSF『プラットフォーム』で知られている。本作は彼の長編3作目だが、デビュー作が『プラットフォーム』で2作目がその続編の『プラットフォーム2』であることを考えると、どうやら貧富の問題に取り憑かれた人物であるようだ。ローラの名前が昨年亡くなったデヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』から取られているように、ストーリーは実際の映画業界ネタや実在の人物に言及しつつ現実のパラレルワールド的に進行していく。

作中で「プルートフォビア」なる聞き慣れない単語が登場するが、これは富(プルート)に対する恐怖症(フォビア)を意味している。神話や天体について興味のある方は逆に聞き馴染みがあるかも知れない。そう、実はこのプルートは、ローマ神話における冥界の神と冥王星を指すプルートと同じ言葉である。意外過ぎるこの意味の組み合わせが、「富=死」として本作の中では奇妙に両立しているわけだ。金持ちたちが苦し紛れに行う自己保身のためのチャリティに、果たして価値はあるのだろうか。……とは言え、金持ちはそれほど恐れなくても良さそうな気もする。何せ、“地獄の沙汰も金次第”、なのだから。

【ストーリー】
ストリーミング・プラットフォームの重役プロデューサーであるローラは家庭を顧みず、自身のキャリアにすべてを捧げてきた。華やかな映画業界での成功を目前にしたその矢先、世界では、裕福な人々を次々と死に至らしめる奇病《リッチフルエンザ》が突如発生し、資本主義に支配された現代社会は、瞬く間にカオスへと陥る。富が死を招く、その極限状態のなかで、ローラが下す究極の決断とは……。

【キャスト】
メアリー・エリザベス・ウィンステッド、レイフ・スポール、ロレイン・ブラッコ、ジョナ・ハウアー=キング、ティモシー・スポール

【スタッフ】
監督・脚本・製作:ガルデル・ガステル=ウルティア
共同脚本:ペドロ・リベロ、ダビド・デソーラ 製作 :パブロ・ラライン、カルロス・フアレス
2024年/スペイン、チリ、アメリカ/英語/107分/カラー/ 2.39:1/5.1ch/原題: RICH FLU/字幕翻訳:小河 恵理
提供:シンカ、TCエンタテインメント
配給:シンカ
©2023 RICH FLU A.I.E, NOSTROMO PICTURES S.L., BASQUE FILMS SERVICES S.L.,MAMMA TEAM SONDER ENTERTAINMENT S.L.
公式サイト:https://synca.jp/richflu

 

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