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【今週公開の注目作】『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』 長く曲がりくねった道の果てに、怪物の待つ袋小路に辿り着く。

◆今週公開の注目作

『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』
 6/12(金)より戦慄のロードショー!  

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

先日から公開されている『廃用身』を観て、医療や介護を提供する側が我々にもたらす(悪)影響の大きさを思い知らされた。ところが、実際にはそのような“ケア”をされる前にケア(気に)するべきリスクがある。現在入所している、または数十年後に老いた時に入所する施設で生活をともにする他の高齢者たちとの相性だ。よく、「年を取ると、逆に子どもに戻っていく」などと言われる。できないことが多くなり人の助けを借りる機会が増えたり、認知症などの影響で感情のコントロールがしづらくなったりするからだろう。そして、その人を取り巻く状況も子どものそれに似ていくと言えるかも知れない。施設での人間関係も、学校と似たようなものだ。職場と違い、どちらも自分の意思で場所を変えるのは難しい。

捉えようによっては牢獄とも言える場所に、独裁者がいた場合どうなるか? それを非常に生理的嫌悪感たっぷりに悪趣味に描いたのが本作『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』だ。しかめっ面の赤ちゃん人形(ジェニー・ペン)が全面に出されたポスタービジュアルからはオカルトホラー的な雰囲気も漂うが、実際はそうではない。れっきとしたサイコサスペンスだ。ベテラン判事であったステファンが脳梗塞で倒れ、身体が一部不自由になったため施設に入所する運びとなる。だが彼を待っていたのは、悪辣な入居者のデイヴだった。デイヴはいつも手にジェニー・ペン人形をはめ、“彼女”とともに独裁者を気取り認知症や活動性の低下が進んでいる他の高齢者を搾取し、蹂躙している。デイヴにひざまずかない、プライドの高い新参者のステファンは目の上のたんこぶだ。ふたりの闘いは他の入居者を巻き込みながら激化していくが……。

本作で描かれる邪悪は、『カッコーの巣の上で』などと異なり施設スタッフではなく、何を考えているのか分からない――今回に限ってはこう呼んでも異論は出ないであろう――「老害」デイヴを演じたジョン・リスゴーだ。本人の瞳と色が違うのでカラーコンタクトを入れているのであろう、ハッとするほどのベイビーブルーアイズに吸い込まれそうになる。顔の造り自体はキュートなおじいさんなのが、よりたちが悪い。虐待を行うのは介護者だけではないのだ。施設スタッフに与えられているのは、どちらかというと舞台装置的な役割と言えるが、その恐ろしさもリスゴーに引けを取らない。ステファンは判事という社会的に最も信頼される立場の人間だったはずなのに、一度の発作で全てを失ってしまった。何を言ってもまともに取り合ってもらえず、デイヴによってさらに窮地に追い込まれていく。これまで積み上げてきたものがガラガラと音を立てて崩れ、自らを証明する手立てがなくなっていくのだ。認知症で自分のことを忘れてしまったわけでもないのに。

ステファン役が、気難しくエキセントリックなキャラクターを演じさせたら天下一品のジェフリー・ラッシュなのが絶望を一層加速させている。はじめこそ頼もしいが、だんだん覇気を失っていく姿を見るのは実に忍びない。輝かしい物語の最後に待つのがこのような暗澹たるエンディングなのか? 手足をばたばた動かすことすらもできず、赤子のように泣くしかないのか? いや……、他の全てを失っても、人生の主人公は自分であると信じて疑わなければ、あるいは。

【ストーリー】
正義感が強く、法を守る強い信念とプライドで長年判事を努めてきたステファン・モーテンセンに訪れた突然の悲劇。病に倒れ、車椅子生活を余儀なくされた彼は郊外のケアハウスに入居する。だが、そこにはジェニー・ペンという名のドールセラピー用の指人形を手に陰湿ないじめで老人たちを支配するデイヴ・クリーリーという1人の入居者がおり、彼と敵対したステファンはいじめの標的にされてしまう。繰り返されるデイヴの理不尽で屈辱的な嫌がらせ、そしてエスカレートする邪悪な行為。正義のために戦い続けてきた男の人生最後の戦いは、想像を絶する死闘と化していく…。

【キャスト】
ジェフリー・ラッシュ、ジョン・リスゴー、ジョージ・ハナレ、イアン・ミューン 他

【スタッフ】
監督:ジェームズ・アッシュクロフト
脚本:イーライ・ケント、ジェームズ・アッシュクロフト

 

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