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『ヴィレッジ』塵の山の頂上から見る景色にどんな意味があるだろう。絶望する若者たちを真正面から見つめる挑戦作。

◆今週公開の注目作

『ヴィレッジ』4月21日公開

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

「名は体を表す」という。だが意図してか意図せずしてか、名前や表現は時にその本質とは逆の意味を持つ。一本でもニンジン…と冗談はさておいて、ファーストクラス、ビジネスクラスに比べて最も下級のサービスなのは「エコノミー(経済的、節約)」クラスだし、安価であることは「リーズナブル(合理的)」。従業員を止めさせるのは「解雇」ではなく「リストラクチャリング(組織の再構築)」で、監視が目的のカメラは「防犯カメラ」…などなど、枚挙にいとまがない。そう言えば、東京都江東区にある「夢の島」はかつて終戦直後にオープンした海水浴場だったが、その後一時期ゴミの埋め立て処分場、“ゴミの島”になっていた。本作『ヴィレッジ』の主要キャストは横浜「流星」と黒木「華」…だが、かつての夢の島同様に、劇中では名前の輝きは完全に失われている。

横浜流星演じる片山優はある村に住んでいる。豊かな自然に不釣り合いなゴミ処理施設のある村だ。山の景色を乱暴に分断しながらも、ギリギリ貧しい村を支えてくれているこの施設で、優は“手を汚しながら”働いている。過去に起こったある出来事によって村八分とも言えるイジメを受けているが、唯一の肉親である母親の借金を返さなければならないので逃げることもできない。そんな絶望的な状況にいる彼のもとに、夢破れ東京から帰ってきた幼なじみの美咲(黒木華)が姿を現すが…。『デイアンドナイト』や『ヤクザと家族 The Family』などで世の中の世知辛さを描いてきた藤井道人監督は、再び誰もが目を背けたくなるストーリーを目の前に突きつけてきた。

村八分とは、一説には冠・婚・葬・建築・火事・病気・水害・旅行・出産・年忌の十種類のうち放っておくと村にも被害が出る葬(疫病防止)・火事の二分以外の交際を断たれるため、そう呼ばれるようになったと言われている。劇中にも葬儀と火事が登場するが、優にとってはむしろこれらが彼の人生に暗い影を落とす原因になっている。一般的に、「未来」には開けたイメージがあるが、本作を見るとそうとは思えない。未来は過去の積み重ねでできている。言い換えれば、過去によって未来は支配されている。しかも、自分には責任がなくとも。「villain(ヴィラン、悪役)」の語源はご存じだろうか。ラテン語の「villa(ウィッラ、田舎の家)」である。そう、同じ語から派生したのが本作のタイトル「village(ヴィレッジ、村)」なのだ。ただし、どこにもヒーローは出てこない。

先日公開されたヒーロー映画『シン・仮面ライダー』には、「『辛』という字に横棒を一本足すと『幸』になる」というセリフが出てきた。それにならって言うならば、「人」に「夢」と書くと「儚い」になる。優と、彼を理解してくれる美咲のささやかな幸せは、何かがひとつ欠けただけですぐに失われるほど危うい。劇中で披露される能の演目『邯鄲(かんたん)』は、ある男が皇帝となり五十年にわたる栄華を極めるも、それは実は粟飯が炊けるまでの一炊の夢に過ぎなかったという話だ。織田信長が舞い踊ったとされる『敦盛』でも、「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり(人間界の五十年は、天界の時間の流れでは一日に過ぎず、夢幻のようなものだ)」と歌われている。

同じ夢なら、自由に羽ばたく胡蝶の夢を見るよりも、ただの胡蝶がたまたま不幸な人間の夢を見ているのだと思い込んだほうが楽だろう。排他的で同調圧力の強いこのムラ/シマ社会では…。ああ、足元を埋め立てていくというのは、良く言い換えれば高みに登ろうとしていると表現できるのかもしれない。……でもそれで本当に良いのだろうか?

【あらすじ】
美しい自然の裏に潜む現代社会が抱える闇—
ある村を舞台に、一人の男の変化と、社会構造の歪みを浮き彫りにしたヒューマンサスペンス!!
夜霧が幻想的な、とある日本の集落・霞門村(かもんむら)。神秘的な「薪能」の儀式が行われている近くの山には、巨大なゴミの最終処分場がそびえ立つ。幼い頃よりこの村に住んでいる片山優(横浜流星)は、美しい村にとって異彩を放つ、このゴミ処理施設で働いているが、母親が抱えた借金の支払いに追われ、ゴミ処理施設で働く作業員に目をつけられ、希望のない日々を送っていた。そんなある日、幼馴染の美咲が東京から戻ったことをきっかけに物語は大きく動き出す――。

【キャスト】
横浜流星、黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗、淵上泰史、戸田昌宏、矢島健一、杉本哲太、西田尚美、木野花、中村獅童、古田新太

【スタッフ】
監督・脚本:藤井道人
音楽:岩代太郎
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
制作プロダクション:スターサンズ
制作協力:Lat-Lon
製作幹事:KADOKAWA
配給:KADOKAWA/スターサンズ
製作:「ヴィレッジ」製作委員会
©️2023「ヴィレッジ」製作委員会

公式サイト;https://village-movie.jp/

4.21(Fri) 全国公開

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