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『ノースマン 導かれし復讐者』アートとエンタメの完璧な融合!今年は“北の男”が全世界を席巻する!

◆今週公開の注目作

『ノースマン 導かれし復讐者』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

本作『ノースマン 導かれし復讐者』は、『ウィッチ』や『ライトハウス』で知られるロバート・エガース監督の新作だ。彼はまた、本作の脚本を『LAMB/ラム』でも脚本を務めていたアイスランドの詩人ショーンと共同で書き上げた。題材は伝説のノースマン(古代スカンディナヴィア人)、アムレートだ。

アムレートの物語は、シェイクスピアの『ハムレット』の原型と言われている。アムレート(Amleth)の最後のHを頭に持って来ればハムレット(Hamlet)だ。王子である幼いアムレートは父親のオーヴァンディル王を叔父のフィヨルニルに殺され、母親のグートルン王妃もフィヨルニルに奪われる。辛くも追手を撒き逃亡した少年は数年後にヴァイキングとなり、復讐を果たすため血眼になって叔父を探すのだ。「仇を討ちます、父上。救い出します、母上。殺してやる、フィヨルニル!」と繰り返しながら。基本プロットはやはり『ハムレット』で、アーティスティックな作風を想像されるかもしれない。確かにこれまでのエガースの作風もそうであったが、本作の大きな要素はふたつある。北欧神話とヴァイキング。言い換えれば、アート性とエンタメ性である。

本作は北欧神話的な雰囲気をまとっている。最高神オージン(オーディン)の使いであるカラスが何度も登場し、ある場面ではオージンの乗る8本脚の馬スレイプニルのイメージが用いられている。ヴァイキングとなったアムレートはある村を襲うのだが、村人を小屋に集めて焼き殺すショッキングなシーンは、アート映画のようなルックの戦争映画『炎628』を思い出させる。同作では、主人公の少年があまりにも凄惨な体験の果てに顔面に深いしわが刻まれ老人のような見た目になってしまう。本作のアムレートも逃亡時には10歳だったのに、数年後の姿は(若く見えるとは言え)いきなり現46歳のアレクサンダー・スカルスガルドが演じている(余談だが、彼はドラマ『トゥルーブラッド』でエリック・ノースマンという役を演じていた。何とも運命的だ)。

 

 

しかし、では単にお高く止まった映画なのか。それは違う。伝説のアムレートは、叔父に殺されないため愚か者または狂気のふりをしたと伝えられている。ところが本作では、狂気は狂気でも狂戦士(ベルセルクル/バーサーカー)のアイディアを採用している。アムレートは、ベルセルクルの語源である熊の毛皮を被り、獣か鬼のように敵をなぎ倒していく。長回しで描かれるバイオレンス描写は目を見張るものがあり、これがアート性と完璧にマッチして本作をただならぬ傑作にしているのだ。また、エガースにとってのミューズ(女神)なのであろう、彼が『ウィッチ』で見出したスター、アニャ・テイラー=ジョイが再び“魔女”の役で出演しており、彼女がアムレートと心を通わせていく繊細なロマンス要素も光っている。

北欧神話には、ノルン(または複数形のノルニル)と呼ばれる3柱の運命の女神が登場する。一般的な解釈では、この3姉妹のうち長女ウルズが過去を、次女ヴェルザンディが現在を、三女スクルドが未来を司ると言われている。彼女らが紡ぐ運命の糸によって人の将来は生まれながらに定められるのだが、アムレートはその糸で残酷な意図通りに踊らされるだけのマリオネットなのか? もしも現世ではそうであるならば、せめて死した後は解き放たれ、エインヘリャル(英霊)としてヴァルキュリャ(ヴァルキリー)にヴァルホル(ヴァルハラ)へ召し上げられんことを…。

【ストーリー】
若き王子アムレート(スカルスガルド)は、父であり国王オーヴァンディル(イーサン・ホーク)を叔父フィヨルニル(クレス・バング)に殺害され、母であるグートルン王妃(ニコール・キッドマン)も誘拐された。アムレートは、父の復讐と母の救出を誓い、たった一人ボートで島を脱出する。数年後、怒りに燃えるアムレートは、東ヨーロッパ各地で略奪を繰り返す獰猛なヴァイキング戦士の一員となっていた。ある日、預言者(ビョーク)と出会い己の運命と使命を思い出す。奴隷に変装したアムレートは、親しくなった白樺の森のオルガ(アニャ・テイラー=ジョイ)たちと共にフィヨルニルが経営している農場があるアイスランドを目指すー。

【キャスト】
アレクサンダー・スカルスガルド、ニコール・キッドマン、クレス・バング、アニャ・テイラー=ジョイ、イーサン・ホーク、ビョーク、ウィレム・デフォー

【スタッフ】
監督:ロバート・エガース『ライトハウス』『ウィッチ』
脚本:ショーン『LAMB/ラム』、ロバート・エガース

2022年/アメリカ/カラー/ビスタ/英語・古ノルド語/原題:The Northman/137分/PG12/字幕翻訳:松浦美奈
配給:パルコ ユニバーサル映画 宣伝:スキップ
© 2021 FOCUS FEATURES LLC.

公式サイト:https://northman-movie.jp
公式Twitter:https://twitter.com/NORTHMAN_JP

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