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『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』100年以上語られてきた不老長寿の物語。“大人の童話映像作家”ギレルモ・デル・トロはどう語る?

◆今週公開の注目作

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

優れた物語は、異なる語り部によって語り継がれていく。イタリアの児童文学作家カルロ・コッローディの『ピノッキオの冒険』もそうだ。19世紀後半に出版された後、1940年にはディズニーによって(『ピノキオ』)、2002年にはロベルト・ベニーニ監督によって(『ピノッキオ』)、2019年にはマッテオ・ガローネ監督によって(『ほんとうのピノッキオ』、今年にはロバート・ゼメキスによって(『ピノキオ』)…。そしてまた今年、ギレルモ・デル・トロ監督によって。

本作のプロジェクトは、2008年ごろにはすでにあったと言われている。しかしストップモーション・アニメということもあり、開発や資金繰りに難航。2018年にNetflixが手を挙げたことで制作続行となり、さらに4年を費やしやっと完成に漕ぎ着けた。それほどまでに、デル・トロにとっては悲願のプロジェクトだったのだ。ピノッキオの物語は、ディズニーの影響で子供向けのファンタジーと思われているだろう。ある意味では本作もそうだ。ただし、原作の暗さを残したデル・トロ印のダーク・ファンタジーだが。

舞台となるのは1930年代、ムッソリーニが支配していた頃のイタリア。ゼペットじいさんは、第一次世界大戦で息子のカルロを亡くし、数十年間悲嘆に暮れたままの酔っ払いだ。悲しみに耐えきれずに息子に似せて作った木の人形はピノッキオと名付けられるが、彼は言うことを聞かず町の問題児となる。大筋は我々がよく知っているものと大差ないが、注目すべきはやはりファシズムを描いていることだろう。

デル・トロはこれまでも、作品の中でファシズムを描いてきた。『デビルズ・バックボーン』や『パンズ・ラビリンス』の背景には、フランコ政権樹立のきっかけとなったスペイン内戦がある。それらの主人公たちのように、ピノッキオも権威に押し潰されそうになりながらも、決して屈しない。ピノッキオは人間に憧れるが、デル・トロはこの物語を通じて「ピノッキオと服従する者、どちらが本当の木偶の坊なんだ?」と問うているのだ。

本作はストップモーション・アニメであると同時に、やはりミュージカルになっている。アニメでミュージカルというとやはりディズニー版が思い出されるが、本作には『シェイプ・オブ・ウォーター』でもタッグを組んだ作曲家アレクサンドル・デスプラのオリジナル曲が用いられており、非常に挑戦的だ。デル・トロは、この不服従の物語を自分の言葉で今一度語りたかったのだろう。かなり高いハードルを課された本作のクオリティはいかに? 答えは簡単だ。ピノッキオの「ピノ」とはパイン、つまり松のこと。最高品質に決まっている。

【ストーリー】
アカデミー賞受賞監督ギレルモ・デル・トロが、見事な映像美で贈るストップモーションアニメ・ミュージカル。木の操り人形を主人公とするあの名作童話が、新たな物語としてよみがえる。

【キャスト】
ユアン・マクレガー、デヴィッド・ブラッドリー、グレゴリー・マン、ロン・パールマン、クリストフ・ヴァルツ、フィン・ヴォルフハルト、ケイト・ブランシェット、ティルダ・スウィントン 他

【スタッフ】
監督:ギレルモ・デル・トロ、マーク・グスタフソン

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