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『サムシクおじさん』食うか、食われるか。タイトルからは想像もできない、重厚なポリティカル・サスペンスドラマ!

この映画は、つまり―
  • ソン・ガンホ、これがまさかのドラマ初出演!?
  • タイトルと裏腹、硬派な作風
  • “我々は考えすぎで、感じなさすぎである”

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◆配信中の注目作

『サムシクおじさん』

ディズニープラスで視聴⇒こちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

韓国映画を見ていると、もちろん全てがそうではないがバイオレントな作風のものが多いので、よく見かける俳優のことが信じられなくなる。その俳優が演じている役が、どの作品においても完全には信用できなくなるのだ(チェ・ミンシクなど特にそう)。ベテラン俳優ソン・ガンホの場合は基本的には善人イメージの方が強いと思うが、彼が富裕層の家庭を乗っ取っていく貧困家庭の父を演じた『パラサイト 半地下の家族』と同じように、彼にとって初めてのドラマシリーズである『サムシクおじさん』においてもその限りでない。

ソン・ガンホ主演で「あしながおじさん」みたいなタイトルなので、ハートウォーミングなほのぼのストーリーのようにも思えるが、テイストは全く違う。実際は、1960年ごろの韓国を舞台にしたポリティカルなサスペンスドラマだ。「サムシク」とは「三食」を意味し、サムシクおじさんことパク・ドゥチルは戦時中など厳しい時代においても徹底して身内に一日三食与えていた人物として描かれる。それだけならやはりプラスのイメージだが、なぜか政界や街のチンピラたちに対して強い影響力を持ち、国の全てを牛耳ろうとしているように見える。

対して善人らしく描かれるのは、アメリカで経済学を学び、朝鮮戦争後で疲弊している韓国を立て直したいと考えている若者キム・サン。共産主義者と揶揄されつつも平和を掲げる次期大統領候補のチュ・インテを支持し、その娘であるヨジンと付き合っている彼もまた、経済回復によって民が飢えない国を作ろうとしていた。同じ「一日三食」の理念を持つサンに、サムシクおじさんは協力を求めていくのだが……。物語には2つの時間軸があり、ひとつは1960年、首都防衛隊(軍)の施設に連れてこられたサンがサムシクおじさんについて取り調べを受けているパート。もうひとつは1959年、サンとサムシクおじさんの出会いとその後を実際に見せていくパート。つまり、1959年パートは現在のサンによる回想の映像と考えて良いだろう。

韓国の作品には、印象的な食事シーンが多いように思う。誰かが美味しそうに食事している場面があると、その人物に対し好印象を持つものだ。しかし、食事が大きなテーマになっているはずなのに、筆者が鑑賞した2話までの時点ではそのようなシーンがない。そのため、サムシクおじさんの本性が見えてこない。協力してしまったが最後、食い物にされるのがオチかもしれない。サムシクおじさんは飢えとは程遠い生活を送っているはずなのに、以上なまでにハングリー精神に溢れているからだ。

それとも、サンは国家という非情な機械を動かす歯車のひとつになっていってしまうのだろうか。そして敵と一緒にすり減って、そのうち互いに代わりの歯車と入れ替えられ歴史の闇に葬られていくのだろうか。陰謀が渦巻き、正解のない政界はいつだって“現代(モダン・タイムス)”のものとしてある。今後サンが“独裁者”となってしまわないことを祈るばかりだ。

【ストーリー】
1960年代の韓国。奨学生としてアメリカで経済学を学んだキム・サンは韓国を産業国家にする夢を持っていたが、自分の力だけでは難しいと壁を感じていた。そんな時、戦争中も毎日三食(サムシク)を与えたことに由来する愛称をもち、影で政界を操る謎のフィクサー“サムシクおじさん”と出会う。2人は不穏なパートナーシップを組み、戦後の苦境にあえぐ韓国を豊かな国に変えることを目標に突き進んでいく――。

【キャスト】
サムシクおじさん/パク・ドゥチル:ソン・ガンホ「パラサイト 半地下の家族」「ベイビー・ブローカー」
キム・サン:ピョン・ヨハン「ミセン~未生~」「ミスター・サンシャイン」
カン・ソンミン:イ・キュヒョン「刑務所のルールブック」
チョン・ハンミン:ソ・ヒョヌ「悪の花」

【スタッフ】
監督・脚本:シン・ヨンシク「カシオペア」

 

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