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『オットーという男』トム・ハンクスが発揮した“嫌われる勇気”は功を奏すのか!?北欧映画のハリウッドリメイク作品!

◆今週公開の注目作

『オットーという男』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

月に裏側があるように、星には常に見えない暗い側面がある。表向きには華やかでもハリウッドスターには二面性があって、裏では色々やっているに違いない…と考える人は少なくないだろう。しかしトップスターの中にも、多くの人々から愛され圧倒的に「良い人」認定されている人物がいる。トム・ハンクスだ。プライベートにおける評判はもちろん、映画の中でもそのイメージが強い。もちろん、悪人を演じたこと自体はある。例えば、輪廻転生を扱い6つの時代の話を同時進行で描いている『クラウド アトラス』では、トム演じる同じ魂を持ったキャラクターも6人登場するのだが、その中で2人は明確に悪人と言える。それでも悪人成分は1/3に過ぎないわけで、過半数である残りの2/3は善人トムだ。

そんな彼なので、嫌われ役を演じるという、ただそれだけのことでも映画のウリになってしまうのだ。本作『オットーという男』でトムが演じる孤独な老人オットーは気難しく、周りのあれやこれやに常に文句を言い続けている。ルールを守らない輩を怒鳴りつけるのはまだ良いとして、ご近所さんにもつっけんどんな対応をするし、店の割引システムにもいちゃもんをつける。確かに割引システムは「5000円以上のお買い上げで500円割引」とかで、結局当初の予定より高い出費になってしまう場合も少なくない…とそれは良いとして、世の中にはどうにも納得できないことが多い。大半の人間は多かれ少なかれ周りに合わせて自分を曲げて生きているが、この丸い地球にいながらオットーは真っ直ぐすぎるのだ。自分のものさしだけで世界を線引きし、物事を測る。

妻に先立たれこの世に未練がなくなったオットーは、事あるごとに自殺しようとする。とんでもなくヘビーな話に聞こえるだろうが、オットーがあくまで“前向き”だからか、その様子はどこかコミカルだ。しかしチャレンジする度に誰かのノックに邪魔される。世界はオットーに自殺さえさせてくれず、やかましい隣人たちのペースに巻き込まれて何となく生き続けるうち、だんだん心境が変化していく…。

本作はスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』のハリウッドリメイクだ。『幸せなひとりぼっち』の原題は『En man som heter Ove(オーヴェという男)』だったので、主人公の名前がオーヴェからオットーに変えられているものの、基本的にはオリジナル版に忠実。ただし所々にアメリカ的なアレンジがされている。特に印象的な違いは、新たに引っ越してくる家族だろう。オリジナル版では奥さんが少し皮肉屋なイラン人だったのが、本作では少し厚かましいメキシコ移民に変更されており、にこやかにオットーの平穏をかき乱す様にはどうしても頬が緩む。また、オリジナル版よりもオットーの回想シーンが少なくなっているが、トムのパブリックイメージのおかげで十分な説得力を持っている。ちなみに若き日のオットーを演じているのはトムの実子トルーマンだ。

さらに、終盤のあるセリフがオリジナル版から変えられており、よりウィットに富んだ言い回しになっているのが憎い。「嫌われ者」がウリだったはずなのに、結局観客はこのトムを好きになってしまう。ああ、世の中は上手くいかないものだ。多少丸くなっても、1メートルの定規しか持たないオットーが描く地球は真円ではなく、楕円でもなく、きっと六万五千五百三十七角形なのだろう。だが、それこそがたまらなく愛おしい。

【ストーリー】
いつもご機嫌斜めなオットーは、曲がったことが大っ嫌いで、近所を毎日パトロール、ルールを守らない人間には説教三昧、挨拶をされても仏頂面、野良猫には八つ当たり、なんとも面倒で近寄りがたい男。それが〈オットーという男〉。そんな彼が人知れず抱えていた孤独。仕事もなくし、最愛の妻にも先立たれたオットーは、妻の後を追って自らの人生にピリオドを打とうとする。しかし、向かいの家に引っ越してきた家族に邪魔され、死にたくても死ねない。それも、一度じゃなく二度、三度も…。世間知らずだけど、とにかく陽気で人なつっこく、お節介者の奥さんのマリソルは厳格なオットーとは真逆な性格。苦手な車の運転や、小さい娘たちの子守を頼んでくる。この迷惑一家の出現により“自ら人生をあきらめようとしていた男“の人生は一変していく――。

【キャスト】
トム・ハンクス、マリアナ・トレビーニョ、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、レイチェル・ケラー

【スタッフ】
監督:マーク・フォースター
脚本:デヴィッド・マギー
製作:リタ・ウィルソン/トム・ハンクス
原作:フレドリック・バックマン「幸せなひとりぼっち」(ハヤカワ文庫)

 

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