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【今週公開の注目作】『視える』 見えるものしか信じない者に、心を語る資格はない。

◆今週公開の注目作

『視える』
11.7(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

アイルランドのホラーはそう多く日本に入ってこないが、数少ない上陸作品の中にはオッド(奇妙)なものが実は多いのでは感じている。例えば、『死霊のはらわた ライジング』のリー・クローニン監督のデビュー作『ホール・イン・ザ・グラウンド』。これは、幼い息子が得体の知れない存在と入れ替わっているのではと疑心暗鬼に陥る母親の話だが、キービジュアルが何とも奇妙だ。何せ、女性が地面に首を突っ込んで死んでいる画なのだから。また、ケッタイな邦題の『ドント・イット』という作品では、亡くなった息子を呼び出すために母親が闇の儀式に手を出すが、召喚される対象が話の中心になりそうなところ、むしろじっくり描かれているのはその儀式の奇怪さや過酷さの方だ。そして、まさに「オディティ(奇妙なもの)」という原題の本作『視える』もまた、やはり凡百のホラーとは一線を画す作品だった。

ストーリー自体は、だいぶ俗っぽくて分かりやすい。精神科の患者に惨殺されたと見られている姉ダニーの死の真相を、盲目の双子の妹ダーシーが調べようとする、ミステリー要素を含んだホラーだ。ダーシーは目が見えない代わりに、普通の人間の目には見えないものが“視える”。遺品などに触れると、それにまつわる過去の映像が視えるのだ。いわゆるサイコメトラーであり、彼女は生前のダニーの夫で精神科医のテッドがくれた患者(犯人)の義眼から真実に迫っていく。

浮き世離れしているダーシーが営む店には、いくつもの曰く付きの珍品が所狭しと並んでいる。まるで、『死霊館』シリーズのウォーレン夫妻の呪物博物館だ。そのひとつひとつにフォーカスが当てられはしないが、それぞれダーシーが一度触れれば映画が1本作れるほどの秘密を秘めているのだろう(ちなみに新入りは、鳴らした者を死に至らしめる呼び鈴だ)。唯一きちんと描かれるのは、ポスターにもあるおぞましい木製のゴーレム(術者に従う人形)。ダーシーはダニーが殺された、そして現在テッドと新しい恋人ヤナが暮らす家にゴーレムとともにやってくる。物語は医師らしく非科学的なものを信じないテッドの視点から描かれるので、ダーシーは真っ白なその外見含め観客からしても奇妙に見えるが、動くはずのないゴーレムのポーズは場面ごとに確かに変わっており……。

本作は、やろうと思えばありがちで派手なオカルト・ホラーとしても撮れただろうが、実際は非常に静的で不思議な雰囲気に満ちている。ほとんどは何かが起きそうで何も起こらないシーンだ。だがその時間で観客の恐怖心は熟成され、効果的なタイミングでそれを爆発させられる。見せ方も工夫されており、画面いっぱいに何かを映し出すより、遠くによく見えない何かを映り込ませていたり、同じ画角でも何かが映っていないシーンと映っているシーンを使い分けたりしている。観客に“視てしまった”感覚を体験させようとしているのだ。テッドのように、見えないものを信じない人はそれなりに多いだろうが、彼ないし彼女は目に見えない人間の心の存在は信じているのだろうか? 霊が人間の負の感情の残滓なのだとしたら、霊を信じないことは心そのものの否定にもなるのではないか? ……いやしかし、あの人物には人の心などないか。

【ストーリー】
ある夜、郊外の屋敷で女性・ダニーが惨殺されるという悲劇が起きる。容疑者は、現場に現れた精神科病院の患者とされていたが、事件は多くの謎を残したまま幕を閉じた。それから1年後、盲目で霊能力を持つダニーの妹・ダーシーが、不気味な木製マネキンと共に、ダニーが殺された屋敷を訪れる。そこには、ダニーの元夫・テッドと、その恋人・ヤナが暮らしていた。姉の死の真相を探ろうとするダーシーを待ち受けていたのは、思いもよらぬ真実と恐怖だった──。

【キャスト】
グウィリム・リー、キャロリン・ブラッケン、タイグ・マーフィー、キャロライン・メントン、ジョナサン・フレンチ、スティーヴ・ウォール 他

【スタッフ】
監督・脚本:ダミアン・マッカーシー

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公式HP:unpfilm.com/mieru

 

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