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『マンティコア 怪物』内なる声はマンティコアの叫びか、セイレーンの歌か。どちらにせよ、“耳を塞ぐ”ことはできない。

◆今週公開の注目作

『マンティコア 怪物』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

「欲望」。この言葉にインモラルな響きを感じるかもしれないが、健全な欲望だってある。喉が渇いていて水が飲みたいとか、休みの日には趣味に没頭したいとか。そういった衝動を英語で「ドライブ(drive)」というように、我々を駆り立て、ある方向に導いていく精神的な原動力が欲望だ。しかし、時たま人はあまりに強い欲望に引きずられて危険運転を始める。

本作の主人公フリアンもそのひとりだ。彼は、現実には存在しないゲームのモンスターを想像し創造するデザイナーで、社内でもその気色悪い造形センスの良さ(?)を認められている。それだけなら全く問題なかったのだが、映画の割と早い段階で、フリアンが何を欲望しているのかが観客に知らされる。本作の大きなテーマになるので今は明かさないが、彼のしたいことは社会的にどうしても認められないものだ。この時点で、この主人公から完全に心が離れてしまう方も多くいるだろう。もちろんその気持ちは分かるが、一度立ち止まって考えなければならない問題もある。フリアンは、少なくともまだ、欲望を行動に移していない。自分を律する理性と社会性は持ち合わせているのだ。果たしてそれでも、「“ソレ”をしたい」と思っただけで、彼は罰されなければならないのだろうか?

ひどくムカついた時、その原因となった人物に対して「殺したい」と思った経験は? 少なくない方が当てはまるだろうと予想するが、まさか実際に行った方は、この文を読んでいる中にはいないはずだ(ですよね?)。だが、もしフリアンを断罪したいと思うなら、そんなあなたも“殺人犯”として裁かれるのがフェア。幸か不幸か、日本では何かを考えただけで罪に問われることはない。その代わり、隣でニコニコとあなたを見つめる誰かに心の中で殺されている可能性も否定できない。人間のような顔をしながら獅子の体、サソリの尾を持ち、その名が意味する通り人を食う想像上の怪物マンティコアはすぐ側にいるかもしれない。いや、それとも内側に?

何ともグルーム(陰鬱)な気持ちになる。同時に、答えのない迷宮(ラビリンス)に我々を誘う不条理な作品でもある(マンティコアと、牛の頭に人間の体を持つミノタウロスとではどちらの方が人間に近いのだろうか?)。監督はスペイン出身のカルロス・ベルムトで、2016年に日本公開された『マジカル・ガール』を撮った人物だ。同作も、少女に降りかかる悲運を描いた不条理劇だった。両作を見ればすぐに分かるが、ベルムトは大の日本好きである。日本人には日本オマージュシーンが、派手な演出もなく淡々と進む暗いストーリーの中である種の癒やしにも感じられるだろう。だが、本作において日本が登場するのは別の文脈のようにも思える。外国でも人気のある日本のアニメやマンガも、ある点において非難されやすい。筆者もそのファンのひとりとして、他人事ではないぞと言われている気がするのだ。

人の代わりに人形を食えば許されるのか。それとも、人形を食えば、そのうち本物の人間が食いたくなってしまうのか。よくある議論の例え話だが、人形すら許されないとしたら、“声”が聞こえたらおしまいだ。“声”を元から断つには、方法はひとつ。だが、それではあまりにも……。

【ストーリー】
空想のモンスターを生み出すゲームデザイナーのフリアン。同僚の誕生日パーティーで美術史を学ぶディアナに出会う。内気で繊細な性格のフリアンだが、次第に聡明でどこかミステリアスなディアナに魅かれていく。しかし、フリアンは隣人の少年を火事から救った出来事をきっかけに原因不明のパニック発作に悩んでいた。
やがて彼が抱えるある秘密が、思いもよらぬマンティコア [怪物] を作り出してしまう…。

【キャスト】
ナチョ・サンチェス、ゾーイ・ステイン、アルバロ・サンス・ロドリゲス、アイツィベル・ガルメンディア 他

【スタッフ】
監督・脚本:カルロス・ベルムト

配給:ビターズ・エンド 
©︎Aquí y Allí Films, Bteam Prods, Magnética Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE

4月19日(金)シネマート新宿、渋谷シネクイントほか全国順次公開

 

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