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『フラッグ・デイ 父を想う日』家族は綺麗事じゃない。実の親子共演で、ショーン・ペンが嘘まみれの真実を描く!

◆今週公開の注目作

『フラッグ・デイ 父を想う日』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

以前、現実世界で恋仲の俳優たちが主人公カップルを演じるロマンス映画を見て、筆者が「さすがの相性の良さだった」と感想を述べた時、何を言ってるんだという顔で「プロの俳優ならば、どんな役柄をもこなすのが当たり前だ」と返してきた人がいた。確かにその通りの部分もあるのだが、それはかなりキャスティングの重要さを蔑ろにした発言だ。例えば、演技力があるからとブラッド・ピットをどのような役にキャスティングしても良いのかというと、もちろん違う。役には、その俳優にハマるものとそうでもないものがある。演技はある程度実生活での体験から引き出されるのだから当たり前だ。

本作の主人公親子は実の親子が演じており、だからこそ味わい深い作品になっていると言えるだろう。犯罪者である父親を演じる俳優は、かつて「ハリウッドの悪童」なんて呼ばれていた。そう、本作は映画監督としても活躍しているショーン・ペンが5年ぶりにメガホンを取り、監督作で初めて主演を務めた作品なのだ。娘・息子役を演じるのは、ペンの実の娘ディラン・ペンと実の息子ホッパー・ジャック・ペンである。

ショーン演じるジョン・ヴォーゲルは、1992年に、贋札事件を起こした犯人だ。刷られた偽札は19万枚を超え、その額約2000万ドル。流通させてしまったのはその400分の1に過ぎない“わずか”5万ドルだが、アメリカで最大の贋札事件と言っても過言ではない。ジョンにはジェニファーとニックという子どもがいた。犯罪者ではあるが子どもにとっては良い父親だった、なんて物語はよくあるが、実際は犯罪者というだけで子どもにとっては迷惑な話なのだ。ジェニファーはジョンの嘘八百に振り回され、だからといって完全に嫌うこともできない、宙ぶらりんな思いを抱えながらジョンと接する。どんなに虚構にまみれていようとも、幼い頃の美しい思い出は本物なのだと信じて。

本作は実話に基づいており、原作はジェニファー・ヴォーゲルが自分と父親との関係を振り返った回顧録だ。『Flim-Flam Man: A True Family History(ペテン師:ある真実の家族史)』というタイトルからも、矛盾をも含んだジョンへの複雑な気持ちが伝わってくる。ジェニファーを演じたディランも、娘として暴行事件や結婚・離婚を繰り返すショーンをどのように見ていたのかが興味深いところだ。ショーンはおしどり夫婦と呼ばれたディランの母でもあるロビン・ライトと別れた後、ディランとほぼ同い年の女優レイラ・ジョージと結婚していたりするし…(しかも1年で離婚)。本作を実の子と共演して作り上げたことを考えると、ショーンにとっても回顧録的な作品なのかもしれない。

「フラッグ・デイ」とはアメリカ国旗制定記念日の6月14日を指し、その日に生まれたジョンが自分を特別だと思い込むきっかけになっている。アメリカの国旗は「スターズ・アンド・ストライプス(星条旗)」の他に、「オールド・グローリー(過去の栄光、輝き)」とも呼ばれる。何とも象徴的だ。無償の愛は善きこととして扱われがちだが、贋札しか持っていないジョンを愛しても“無償”に終わるのだろうか? 子どもは白旗を上げるしかないのか。親に複雑な思いを抱えた方には、特に突き刺さる内容になっているはずだ。

【ストーリー】
1992年、全米にショッキングなニュースが流れる。アメリカ最大級の贋札事件の犯人であるジョンが、裁判を前にして逃亡したのだ。彼にはジェニファーという娘がいた。父の犯罪の顛末を聞いたジェニファーは、こうつぶやく──「私は父が大好き」。史上最高額の贋札を非常に高度な技術で偽造したジョンとは、いったいどんな男だったのか?父の素顔を知っても愛情は変わらなかった娘との関係とは?ジェニファーが幼い頃から「平凡な日々を見違えるほど驚きの瞬間に変えた」父との思い出を宝物のように貴い、だからこそ切ない日々がひも解かれていく──。

【キャスト】
ディラン・ペン、ショーン・ペン、ジョシュ・ブローリン、ホッパー・ジャック・ペン、キャサリン・ウィニック、エディ・マーサン、レジーナ・キング 他

【スタッフ】
監督:ショーン・ペン

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