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【今週公開の注目作】『96分』時速300キロで疾走する“トロッコ”。車輪が、乗客が、軋り合って金切り声を上げる。

◆今週公開の注目作

『96分』
3/13(金)シネマート新宿ほか全国公開

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

『96時間』という映画があった。娘を誘拐されたリーアム・ニーソン演じる主人公が、手段を選ばず犯人を追いかけ追い詰めていくアクション映画だったが、その中で96時間は誘拐の被害者を救助するまでのタイムリミットとされている。これは恐らく、きちんとしたデータに基づいたものというより、映画的な設定として考案されたものだろう(筆者が調べたところでは、実際に誘拐された子どもの9割は24時間で殺害されてしまっているとする論文があった)。また、災害においては「黄金の72時間」という概念があり、被災から3日を過ぎると被災者の生存率が格段に下がると言われている。人命救助は時間がいくらあっても足りないのに、いつだって残された時間はわずかだ。言わずもがな、本作『96分』も刻限の迫る極限状態を描いたヘビーなサスペンスになっている。

本作の舞台となるのは、台湾北部の台北市から南部の高雄市までを縦断する台湾高速鉄道。345キロメートルを約90分で結ぶのがこの台湾の新幹線だ(距離的には東京駅~名古屋駅間に近い)。日本の新幹線をベースに作られたこの車両に、速度を落とすと爆発する爆弾が仕掛けられるという、『スピード』やそれこそ最近話題になった『新幹線大爆破』などを思い出させる作りになっている。台湾本島を切り裂いて進む弾丸列車にすら追いつこうとするタイムリミット。そのあまりにも短い猶予の中で、偶然か必然か乗り合わせた元爆弾処理班のカンレンが犯人探しと爆弾処理に奔走する。

緊迫感に押し潰されそうな設定なのは間違いないが、本作の一番の特徴はその分かりやすいギミックではない。そのスピード感に反して、印象的なのは重苦しいドラマだ。単純な勧善懲悪の物語ではなく、犯人の動機やカンレンが爆弾処理班を辞めた理由が明かされると、あくまで安全圏からタイムリミットに肝を冷やしていた我々観客も、いよいよ傍観者ではいられなくなる。電車とは、つまりトロッコ。そう、本作の中心的なテーマは一般的にもよく知られている倫理的な問い、トロッコ問題なのだ。

災害や本作で描かれるような爆弾テロにおいて、危険にさらされている全ての人間を救うことは残念ながらできない。これは動かしようのない事実だ。医療現場では治療の優先順位を決めるトリアージを行い、テロの現場では可能な限り多くの人間を助けるため少数が見捨てられる場合がある。それは一部の乗客かも知れないし、救助に命を懸ける人間かも知れない。しかし、その残酷な事実を甘んじて受け入れようとする人はもちろん多くない。その軋轢で救助活動にブレーキがかかり、さらに事態は悪化、悲鳴も大きくなっていく。それはそうだ。その“救助活動”の対象に自分は含まれていないのかも知れないのだ。

元々決まった答えのある問いではないにもかかわらず、無限に続けられる思考実験の枠を飛び出してしまった本作のトロッコ問題は、無回答でも最終的に時間が無慈悲に答えを出す。まさに“時間の問題”だ。「脱線させる」なんて反則的な回答では誰も救えない。決められたレールを走り続けるのがトロッコなのだ。ただ、走り方だけは選べるかも知れない。ほぼリアルタイムである96分の新幹線内サスペンスと、その前後の数十分で実際は2時間弱の尺になっている本作だが、それでもあまりにも短いと言わざるを得ない。本作は単なる重い映画ではない。そこにあるのは紛うことなき重い現実なのだから。

【ストーリー】
物語の舞台は台北から南部・高雄へ向かう台湾新幹線(高鉄)の車内。妻と共にこの新幹線に乗車していた爆弾処理専門家のカンレンのもとに、元上司から「列車に爆弾が仕掛けられている」との一報が届く。しかも列車を停めると爆発するという。台北から高雄までは96分。康任はこの96分の間に爆弾を見つけ出し、危機を解除しなければならない。犯人の目的は一体何なのか、そして乗客の運命はいかに……。

【キャスト】
リン・ボーホン、ヴィヴィアン・スン、ワン・ポーチエ、リー・リーレン 他

【スタッフ】
監督:ホン・ズーシュアン

 

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