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【今週公開の注目作】『嵐が丘』この荒野では、屋敷の中でまで狂風が吹きすさぶ。

◆今週公開の注目作

『嵐が丘』
2026年2月27日(金) 全国ロードショー

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

『嵐が丘(ワザリング・ハイツ)』。タイトルくらいは聞いたことがある、という方はおそらく少なくないだろう。イギリスの作家エミリー・ブロンテによる生涯唯一の小説であり、英文学の名作として知られている。音楽の世界にも、このタイトルを引用した楽曲がいくつかある。まずはケイト・ブッシュの「嵐が丘」。そして彼女の名曲「ラムールは貴方のよう」をカバーした日本の音楽ユニットALI PROJECTの「嵐ヶ丘」。意外なところだと、「ワザリング・ハイツ」という名前のデンマークのメタルバンドまである。

だが、それだけ有名な作品とは言っても、筆者含め原作を読んでいる方はきっと多くないだろう。原作の代わりに、と言っては何だが、筆者はこれまで何度も映像化されてきた『嵐が丘』のうち3つのバージョンをすでに鑑賞済みだ。何とこの『嵐が丘』の映画というのは、原作が確固たる地位を築いているにも関わらず、映画化の度に全く異なるアプローチが用いられている。今回のエメラルド・フェネル監督版は、本人が公言しているように、子ども時代に読んだ原作への衝撃をフェネル自身のカラーを存分に、ビビッドにまぶして表現したものなので、これまでの作品ともさらに違うのだ。今回は原作が古典であるため、少し趣向を変えて先行作品の特徴をそれぞれ紹介していこう。それらとも一線を画すフェネル版に期待を高めていただくために。

先に、端的に『嵐が丘』がどういった話なのかを伝えておくと、ラブストーリーだ。それも、悲恋の物語である。ところが、そこから一般的に想像されるロマンチックな展開を期待すると大きく裏切られる。軸となるのは、荒涼とした大地と吹きすさぶ風だけがある過酷な地に立つ屋敷「嵐が丘」で暮らすアーンショウ家と、近所に住む上流のリントン家のふたつの家族だ。アーンショウ家の娘キャサリンは、幼い頃父が連れ帰ってきた異人種の孤児ヒースクリフと交流し、成長するに従い強く愛し合うようになる。しかし、ヒースクリフを息子同然に可愛がっていた父が亡くなると、後ろ盾を失ったヒースクリフは召使として扱われる。キャサリンは変わらずヒースクリフを想いながらも、身分の違いなどの障壁を理由にリントン家の子息のプロポーズを受け入れてしまう。ショックからヒースクリフは失踪するが、数年後裕福そうな身なりで嵐が丘に戻って来る。キャサリンに対し愛すると同時に憎んでいるような態度で苛烈に接してくるヒースクリフ。そうして、彼とキャサリンの関係は周りの人間を巻き込みながら破滅に向かっていく……。

まずは、最初の映像化となる巨匠ウィリアム・ワイラー版(1939)。クラシックなモノクロ映画だ。最もハードルが高いと思われそうだが、筆者は同作が最も見やすい、というかキャラクターを理解しやすい作品だと思っている。ローレンス・オリヴィエ演じるヒースクリフは二面性が強烈で、ロマンはロマンでもピカレスクロマンの主人公のようだ。手段を選ばずアーンショウ家の全てを奪っていく様はどう見ても悪役だが、まさに「可愛さ余って憎さ百倍」を体現したようなヒースクリフには反感を覚えつつ共感せざるを得ない。これは、キャサリンもキャサリンでかなり身勝手な人間に見えるからだろう。次に、ピーター・コズミンスキー監督版(1992)だ。ヒースクリフ役をレイフ・ファインズ、キャサリン役をジュリエット・ビノシュが演じているので、キャスト面では最も馴染みやすいはずだ(音楽は坂本龍一)。実は、ワイラー版と次に紹介するバージョンでは原作の前半しか映像化されていない。同作では後半まで映像化されているが、ワイラー版とほとんど同じ尺なのでかなりダイジェストな感がある。基本的な話をそもそも知っていないと前半でキャラクターに感情移入しづらいが、自らの子にすら復讐心を向けるヒースクリフの極悪非道な面が強烈に描かれている。後半はヒースクリフとキャサリンの子どもの代に話が移り、憎しみに囚われたヒースクリフと、憎しみから解き放たれ愛に生きていく子どもたちが対照的だ。こちらはかなりヒースクリフに共感しづらく、悲恋というより世代間のドロドロとしたドラマと表現した方が近い。エミリー・ブロンテが劇中登場し、荒野にある朽ち果てた屋敷と墓を見てこの物語を想像した、という形で語られる。

そして、フェネル版に次いで新しい映像化は『バード ここから羽ばたく』のアンドレア・アーノルド監督による『ワザリング・ハイツ ~嵐が丘~』(2011)だ。ヒースクリフを黒人として解釈し、セリフが少なく、これまでの2作よりずっと生々しくリアリティを感じさせるように撮られている。個人的には荒野の寒々しさが最も印象的なのはこちらだ。しかしヒースクリフの悪どさはワイラー版よりも控えめで、復讐劇としてはあまりパンチが強くない。初めて触れたのがワイラー版だった筆者にとって『嵐が丘』はラブストーリー5割、復讐劇5割の作品であり、愛で繋がれないなら憎しみで繋がる他ないとでも言いたげな愛憎入り乱れた人間模様が重厚に描かれていなければどこか物足りない。フェネル版の大きな特徴は、主にヒースクリフ視点で描かれてきた物語をキャサリン視点に変え、よりセクシャルで、考証的にもより大胆になっている点だろう。基本的に同じ物語をどうアレンジしているのか。そこを意識しながら、挑発的な題材を選び続けるマーゴット・ロビーと人を狂わせる役が板についてきたジェイコブ・エロルディの愛/憎しみに眩むと良いだろう。

【ストーリー】
「あなたは私のすべて。君は僕のすべて。」――物語の舞台はイギリス・ヨークシャーにある広大な高台<嵐が丘 (Wuthering Heights)>。この“嵐が丘”に佇む、アーンショウ家の屋敷に住む美しい令嬢キャサリンと、屋敷に引き取られた孤児ヒースクリフの身分の違うふたりは、幼少のころより心を通い合わせる。やがて大人になった二人は、互いを求め激しく惹かれ愛し合う。だが永遠を誓った愛は、身分の違い、周囲の境遇、そして時代の渦に飲み込まれ、予期せぬ道をたどる。“嵐が丘”を舞台に、心赴くままに愛し合う二人を待ち受ける衝撃の運命とは……?

【キャスト】
マーゴット・ロビー、ジェイコブ・エロルディ、ホン・チャウ 他

【スタッフ】
監督・脚本:エメラルド・フェネル

 

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