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【今週公開の注目作】『アグリーシスター 可愛いあの子は醜いわたし』 己を美しく磨かなければ。それが無理なら、醜さを削り取らなければ。

◆今週公開の注目作

『アグリーシスター 可愛いあの子は醜いわたし』
2026年1月16日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

誰もが知る童話には、本当は恐ろしい一面がある。……なんて、何一つ真新しい話ではないか。初版では、白雪姫を殺そうとしたのは継母ではなく実母だ。母が我が子を“殺し”、(偽物ながら)その肝臓を食べる。王子は、何のためにか白雪姫の美しい死体を引き取る。そして生き返った白雪姫と王子の婚礼の宴に招かれた実母は、真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ死ぬまで踊らされる。要素だけを取り出せば、ディズニーのクラシックである1937年の『白雪姫』とそこまで大きな違いはないようにも思えるが、元のバージョンはやはり子どもに聞かせるのがかなり憚られる内容だ。だからこそ、童話として末永く語り続けられるように、必要な手直しが行われたのだろう。……いや、いや。そうならば、白雪姫の物語において最も恐ろしい、現実の現代社会でも蔓延したまま根絶されていない残酷な病理についての記述も修正すべきではないか。もしやお忘れだろうか。それとも疑問にも思わなかっただろうか。母が我が子を殺そうとしたのは、「美しさで負けた」からだということを。

本作『アグリーシスター 可愛いあの子は醜いわたし』がベースにしている童話は「シンデレラ」だ。ただし、主人公はシンデレラではない。童話の中ではシンデレラをいじめ、王子に見初められようとして自らを“矯正”するも、全ての試みが失敗し何もかもを失う義理の姉(ステップシスター)だ。本作の中では、義理の姉であるエルヴィラはシンデレラにあたるアグネスをいじめたりはせず、その役割はエルヴィラの実母でアグネスの継母であるレベッカが一手に担っている。エルヴィラは基本的に気弱で従順、誰かを傷つけることもない乙女らしく白馬の王子様を夢見る“良い子”だ。その代わり、常に傷つけられている。一番の原因は、その見た目と同じほどに美しいとは言えない心を持つアグネスからの嫌がらせではない。アグネスの美しい見た目、それ自体のせいだ。

王子が国中の若い女性の中から結婚相手を探し始めると、エルヴィラとアグネスの格差は最もグロテスクな形で浮かび上がる。悔しいながらもアグネスの美しさを知っているレベッカは、エルヴィラを美しくするために手段を選ばない。元の英語を略した言葉にはなるが、化粧を“メイク”とはよく言ったものだ。レベッカがエルヴィラを矯正しようと強制する方法は、容赦のない美容整形(じんたいかいぞう)。美への執着は、さながら腹の中で膨れ上がる寄生虫。「カワイイは、つくれる」。美しいも、つくれるのだ。持たざる者の場合は、見る者の目が潰れそうなほど醜悪な、自らの身を削り取る方法で!

最近ではディズニーの名作を俗悪ホラー映画におめかしするのがトレンドで、すでにシンデレラの物語もその“被害”に遭っているが、本作は完全にお株を奪っている。すでに海外で高い評価を受けながらもお高く止まっておらず、黙る子も泣くほど露悪的でキッチュな映像で我々の血の気を引かせる。皮肉にも美白効果があるようだ。同じくトレンドとなっているのが『TITANE チタン』『サブスタンス』などの女性監督による強烈なボディ・ホラーだが、本作のエミリア・ブリックフェルト監督も例に漏れず同ジャンルの巨匠デヴィッド・クローネンバーグに影響を受けているらしい。怪物を愛するギレルモ・デル・トロ監督が『シェイプ・オブ・ウォーター』で描いたのはひねりの効いた「人魚姫」だったが、何物にもとらわれないように見える水、いや血液は歪に歪む身体という袋に合わせて形を変える。美に支配された化生(けしょう)にさえも。美しさへの憧れは、奇しくも時に耐えがたい醜さに結びつく。だが、奇しくも時にはたまらない“可愛さ”に結びつくのだ。愛せるかどうかは、長所でなく短所を受け入れられるかどうかに左右されるのだから。

【ストーリー】
――スウェランディア王国のユリアン王子は、淑女たちの憧れの存在。彼と結婚するために、彼女たちは日々努力を重ね、美しさに磨きをかける――。エルヴィラは、母レベッカの再婚のために妹アルマとこの王国へとやってきた。ユリアン王子の花嫁になることを夢見ながら……。 新しい家族となる義姉妹のアグネスは、家柄に恵まれたとても美しい女性。一方、エルヴィラは矯正器具に覆われた口元、ふくよかな体形、こじんまりとした鼻、つぶらな瞳。しかし、アグネスの父が急逝したことで事態は一変する。 レベッカはアグネスを貶め、エルヴィラを国王の花嫁にするため手段を選ばずに美を施してゆく。そんななか、ユリアン王子の花嫁候補を集めた舞踏会が開かれることになるが――。

【キャスト】
リア・マイレン、アーネ・ダール・トルプ、テア・ソフィー・ロック・ネス、フロー・ファゲーリ、イサーク・カムロート 他

【スタッフ】
監督・脚本:エミリア・ブリックフェルト

 

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