【今週公開の注目作】『シェルビー・オークス』朽ちた家が、錆びた観覧車が、蔓延る草木が手招きしている。

2025.12.11

◆今週公開の注目作

『シェルビー・オークス』
2025年12月12日（金）全国ロードショー

廃墟はなぜ人を引き寄せるのか。その答えは「人がなぜホラー映画に惹きつけられるのか」という問いと無関係ではないだろう。かつて一度は賑わったであろう町や、一度は人の温もりに満たされたであろう住宅も、何かのきっかけでその役目を終える。そうしてその場所は、誰にも知られない、誰もが忘れてしまった過去を抱えた未来のない澱みに変わり果ててしまう。存在理由の消失。それは無生物である建築物が辿り着くただひとつの終焉、紛れもない“死”だ。人も生まれた瞬間から死に向かって歩き始める。到達するタイミングが他人より遅いか早いかの違いはあれど、誰も決められたゴールから目を逸らすことはできない。故に、死に惹きつけられてしまうのだ。

本作のタイトルにもある「シェルビー・オークス」はオハイオ州の架空の町だが、どこかにある、もしかしたらどこにでもあるゴーストタウンだ。オカルト系の動画を作成していた人気配信者のライリーは12年前、シェルビー・オークスの調査に出かけていき失踪した。ライリーのことを諦めきれない姉ミアは、失踪直前のライリーが映ったビデオテープを手に入れたのをきっかけに本格的に捜査を始めていくが……。

今となってはもはや懐かしいとすら感じる、過去の映像記録を追っていく『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のようなモキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)、ファウンド・フッテージホラーだ。……前半までは。昨年、VHSホラー映画の中に幼い頃失踪した妹らしき女優を見つけ心をかき乱されていく姉を描いた『映画検閲』という作品が劇場公開されたが、前半の設定だけは近いものがある。本作のビデオカメラによる映像は不鮮明すぎて、本当に何かの影を捉えているのか、枯れ尾花を映しているだけなのか判別が困難であまりにも頼りない。しかし、このようなホラーにおけるアナログ表現は、観客にとっては脱出不能な監獄以外の何物でもない。察しの良すぎる我々の脳は、曖昧なものを見ると勝手に意味付けしていく。壁の染みは恨みがましい顔に。より“そうであってほしくない”方向に。

本作は、クラウドファンディングサイトのKickstarterで支援者を募って制作された映画だ。演出だけでは醸し出せない低予算映画の雰囲気に包まれた前半で、我々観客……もとい、チャンネル視聴者の心を掴む。そして後半は、ミア視点の劇映画へとシフトする。映画表現的にはノンフィクションからフィクションの世界へ。ミアからすると自分と隔たりのある過去の動画から眼前の現実へ。しかし、いざ足を踏み入れたシェルビー・オークスには、現実のものとは思えない呪術めいたサインが刻まれている。もしかしたら足のないナニカに囲まれながら、ミアと我々の足も地につかない状態になってしまう。正直に言うと、本作はかなり人を選ぶと思う。終盤の展開が全体を台無しにしている(ruined)と思う方すらいるかもしれない。だが、そうだとしても仕方がないだろう。人は廃墟(ruin)に引き寄せられるものなのだから……。

【ストーリー】
オハイオ州の廃墟と化した町シェルビー・オークスで、人気ホラー実況チャンネル「パラノーマル・パラノイド」のMCライリー・ブレナンが忽然と姿を消した。事件は未解決のまま12年後、妹の行方を追う姉ミアのもとに失踪の瞬間を映した一本のビデオテープが届く。映像を手掛かりに事件の真相を探るミア。現場に残った奇妙な刻印、幼少期の悪夢、呪われた町の歴史、言い伝え……、すべての謎が紐解かれた時、辿り着いたのはあまりにも恐ろしい事実だった――。

【キャスト】
カミール・サリヴァン、ブレンダン・セクストン三世、キース・デヴィッド、サラ・ダーン、デレク・ミアーズ、エミリー・ベネット、チャーリー・タルバート、ロビン・バートレット、マイケル・ビーチ　他

【スタッフ】
監督：クリス・スタックマン
脚本：クリス・スタックマン、サマンサ・エリザベス
製作総指揮：マイク・フラナガン　『ドクター・スリープ』他

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