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【今週公開の注目作】『サターン・ボウリング』今や、コンクリートジャングルが人間の狩り場。

◆今週公開の注目作

『サターン・ボウリング』
10 月 4 日(土)よりユーロスペースほか全国ロードショー

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

気持ち悪い。それが、本作『サターン・ボウリング』を見ての最初の感想だ。この映画は決してエンタメ作品ではなく、ただただ陰鬱で、救いがなく、気持ち悪い。その上、この気持ち悪さが自分の中にもあるのかもしれないと考えさせられて、なおさら最悪だ。しかし、男性は特に目を背けてはいけない。女性であるパトリシア・マズィ監督の視点から、いわゆる「有害(有毒)な男性性」をありのまま、露骨にグロテスクに描いている作品だからだ。

本作の主人公は父親を亡くした兄弟だが、兄のギヨームと弟のアルマンは違う母親から産まれた。回想シーンがないのでほとんど登場しない父親は、それでもふたりの人生に大きな影を落としている。生前父親はギヨームばかり可愛がっていたようで、婚外子のアルマンは非常に強いコンプレックスを抱いている。恋人も定職もないアルマンを気にかける警察官のギヨームは、父親が遺したボウリング場「サターン・ボウリング」の経営を任せるが、父への愛憎を秘めたアルマンは遅い反抗期が来たようにめちゃくちゃな運営をし始め、だんだん彼の様子も変貌していく。同じ頃、巷では女性への性暴力・殺害事件が多発し……。

あらすじや、ノワールといった触れ込みから、不在の父親にはとんでもない裏稼業でもあったのかと思えば、どうやらそうではない。父親はハンターで、動物を狩るのが趣味だった。そして地下にある閉塞感たっぷりのサターン・ボウリングには、アルマンが毛嫌いするハンター仲間の老人たちが連日たむろしている。老人たちは男の嫌らしさを煮詰めたような連中で、父親はまさにキングピン(周りを囲まれた5番ピン、またはギャングのボス)扱いだ。公式のあらすじだとギヨームの方が主人公のように思えるが、前半ではカメラはアルマンを追いかける。アルマンは気弱そうで、無害……いや、もっと言うと無力な男性に見える。しかし、父親と同じ名を持つ彼は、父親の部屋で暮らし、父親の物に囲まれて、父親の服を身にまとうことで虎の威を借り、徐々に同一化していく。

本作はミステリーではなく、すぐ犯人がバラされるのでもう言ってしまうが、女性を狙う卑劣漢はこのアルマンだ。彼が最初にエモノを手にかける様子は、赤裸々なラブシーンのように始まって、血みどろの殺人シーンで終わる。#MeToo運動の中では、女性に対する性暴力をテーマとして掲げつつ映像としてはその場面をほとんど見せないという作品も多く見られたが、本作は真逆で直視できないほど画面に大写しにする(ゆえにR18+か)。男性の加害性をまざまざと見せつけられるのだ。冒頭では、父親や老人たちと上手くやっていたギヨームの方が有害な男性なのではと疑ってしまうが、観客(もとい筆者)は弱者に見えたアルマンにこそ例えようもない嫌悪感を抱くだろう。もはや、彼の目に映る女性は人間ではない。太古の昔、狩りに出る男性に対して木の実採集、または同じく狩りを手伝う頼れるパートナーであった女性は、狩りの対象に貶められてしまった。

 

 

映画の後半は、アルマンの豹変の反動で比較的善人に見えるギヨームが、犯人が弟と知らずに事件を捜査していくパートになる。彼こそは、父親の暗い影を振り払うことはできるのだろうか? 男性性の呪いが広がっているのは、決して土星のような辺境の地ではない。この地球という惑星の半分の人間が、それを継承してしまう可能性があるのだ。「サターン」とは、ローマ神話の農耕の神サトゥルヌス。有名なゴヤのトラウマ絵画「我が子を食らうサトゥルヌス」を見れば、本作のおぞましさもより際立つだろう。“輪をかけて”。

【ストーリー】
寝る場所を求め街を徘徊するアルマンのもとへ、疎遠になっていた異母兄ギヨームが父の死を告げに現れる。彼らの父はボウリング場<サターン・ボウリング>の経営者であり、狩猟を趣味とするハンターでもあった。警察官として働くギヨームは、遺産として継いだボウリング場を職も家も持たないアルマンに委ねる。だが婚外子の自分を捨てた父への怒りを抱えたアルマンは、傍若無人な経営で揉め事を起こしてばかり。そんなある日、兄弟の周囲で若い女性を狙った連続殺人事件が発生。ギヨームは事件を追うなかで、底知れぬ暴力の螺旋へと足を踏み入れていく。

【キャスト】
アリエ・ワルトアルテ、アシル・レジアニ、Y・ラン・ルーカス、レイラ・ミューズ 他

【スタッフ】
監督:パトリシア・マズィ
脚本:パトリシア・マズィ、イヴ・トマ

 

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