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【今週公開の注目作】『ラスト・ブレス』 太陽から8分で地球に届く光と熱も、海底には永遠に届かない。

◆今週公開の注目作

『ラスト・ブレス』
9月26日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー!

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

「息を呑むような」という表現がある。面白いことに、英語にも同じ意味の「ブレステイキング(breathtaking)」という言葉があるが、本作『ラスト・ブレス』ほど、それがピッタリな映画はない。人間の命など一瞬で奪われる極限の環境と言えば、まず宇宙が思い浮かぶだろう。空気がなく、闇に囲まれ、命綱だけが頼り。そんな異世界が、地上の我々からどれだけ離れた場所にあるのかご存じだろうか? 100キロメートルだ。地上を水平方向に100キロ移動すると考えると、到達できない遠さではないが近くはない。しかし、いざこれを垂直方向で考えると途端にひどく短い距離に思える。とは言え、日本一高い富士山の標高が4000メートルもないのだから、100キロの高度は想像しづらいかもしれない。簡単に説明すると、オーロラが発生するのが大体その辺りだ。異世界は、思ったよりも我々のすぐ近くにある。

……では、宇宙よりもずっと近くに、ある意味で宇宙に似た極限の異世界があるのはご存じだろうか? 空気がなく、闇に囲まれ、命綱だけが頼り。それは海の底だ。いや、「底」は言い過ぎた。水深、たった100メートル。手を伸ばせば触れられそうなほど、足を伸ばせば届きそうなほど近くにその“宇宙”は存在する。だが、人類の大きな一歩はすでにそこにも刻まれている。人類が人工衛星を打ち上げたように、すでに水底の宇宙にもライフラインであるパイプラインが敷かれ、さらにそれをメンテナンスする人々がいる。本作の主人公たち、飽和潜水士だ。

3人が1チームとなり、彼らは任務に当たる。実際に作業をするダイバーは、地上に婚約者を残してきた若いクリス(フィン・コール)と少し冷たいが経験豊富なデイヴ(シム・リウ)のふたり。彼らを補佐するのがベテランのダンカン(ウディ・ハレルソン)だ。彼らは、船と繋がったベルと呼ばれる潜水用の機械に乗り込み、目標深度を目指す(ちなみに、「深海」と呼べるのは一般的に水深200メートル以下なので、本作の舞台は厳密には深海ではない)。星すらない、常人には恐ろしさしか感じられないそこで順調に作業は進んでいたが、嵐のために船が流されてしまい、何とクリスの命綱が切れてしまう。文字通り一寸先は闇の世界で、命綱が切れればベルを見つけ出すのはおろか、数十分間の生存すら絶望的。なぜなら緊急用のボンベには、10分間分の酸素しかないからだ。もし奇跡的に助け出されたとしても、呼吸が止まって5分以上経過すると脳は元通りにならないほどのダメージを受ける。果たして、クリスは婚約者の元に帰れるのだろうか? ……生きた状態で?

驚くべきことに、本作は実話が基になっている。監督のアレックス・パーキンソンは、飽和潜水士クリス・レモンズが実際に遭遇した事故を題材にしてすでに同題のドキュメンタリー映画を撮っており、今回はそれを劇映画の形に作り変えたのだ。たまらなくスリリングな映画なのは間違いないが、スリラーに通常求められる以上の圧倒的リアリティによって、よくあるパニック映画とも一線を画すシリアスな「お仕事映画」となっている。ほとんどリアルタイムで進行する緊張感に、我々の呼吸も次第にか細くなる。いくら酸素を節約しようと彼に届かないと知りながら。母なる海が切り落とした命綱、アンビリカル(=へその緒)ケーブル。クリスの次の呼吸は、今生のラスト・ブレスか、それとも再び始まる人生のファースト・ブレスか。最後に我々が吐く息は、嘆きと安堵、そのどちらから来るものか。……もうひとつ、我々は知っている。命綱などなかろうと、人間は目に見えない絆で繋がっているのだと。

【ストーリー】
潜水支援船のタロス号が北海でガス・パイプラインの補修を行うため、スコットランドのアバディーン港から出航した。ところがベテランのダンカン(ウディ・ハレルソン)、プロ意識の強いデイヴ(シム・リウ)、若手のクリス(フィン・コール)という3人の飽和潜水士が、水深91メートルの海底で作業を行っている最中、タロス号のコンピュータ・システムが異常をきたす非常事態が発生。制御不能となったタロス号が荒波に流されたことで、命綱が切れたクリスは深海に投げ出されてしまう。クリスの潜水服に装備された緊急ボンベの酸素は、わずか10分しかもたない。海底の潜水ベルにとどまったダンカンとデイヴ、タロス号の乗組員はあらゆる手を尽くしてクリスの救助を試みるが、それはあまりにも絶望的な時間との闘いだった……。

【キャスト】
ウディ・ハレルソン、シム・リウ、フィン・コール 他

【スタッフ】
監督:アレックス・パーキンソン

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