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【今週公開の注目作】『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』あの愛はもうとりもどせない。ならば、YouはShock!!

◆今週公開の注目作

『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』
9月19日(金)より新宿ピカデリー他全国ロードショー

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

なんなんだこのイカれた邦題は! しかし実際本作『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』を見てみると、大体その通りなのだからしょうがない。ここまでクレイジーな、ドライブ・ミー・クレイジーな映画は(まあ『サブスタンス』などはあったが)もう今年は出てこないだろう!

あらすじの最初の一文を読めば本作のカラーが分かる。「文明が崩壊した終末世界」。そういうことだ! 世界観はマッドがマックス。ただし核戦争後で砂まみれなのではなく、マトモな法と倫理が支配していた文明的な時代がとうの昔に過ぎ去り、代わりに残虐な女帝が暴力と恐怖で統治する王朝が栄えているという意味で終わっている。女帝ヒルダ・ヴァン・デル・コイは、毎年“淘汰(カリング)”なる反乱分子を処刑するイベントを大々的なエンターテイメントとして行っており、国民を洗脳しヘイトを反乱分子に向けるようコントロールしている。主人公である“ボーイ”は幼い頃、最愛の妹ミナと政府に楯突く母をヒルダ本人に処刑された。ボーイはどうにか逃げ延び、森で暮らす反乱分子の“シャーマン”から戦闘技術を叩き込まれる。月日が流れ逞しく成長した少年は、ついにヒルダを打ち倒すため立ち上がる。

一言で表すと「リベンジ・アクション」だが、本作はそんな陳腐な作品ではない! 悲劇の後ボーイが声と聴覚を失っているため、主演のビル・スカルスガルドは全くセリフを喋らない。心の声は全編にわたってまさに少年のようにはっちゃけているが、それは彼自身ではなくミナと行ったゲームセンターの筐体から流れていたシブい声、イマジナリーボイスなのだ! そして毒だか薬だかクスリだか分からないナニカを飲ませて吸わせて食べさせるシャーマンのせいでボーイは現実と空想の境目が曖昧になっており、幻覚ばかり見ている(プロデューサーのサム・ライミがホラーコメディでやりそうな画だ)。そして、四六時中ミナに“話しかけられている”。

目が離せないお転婆キュートなイマジナリーフレンドならぬイマジナリーシスターに手を焼かされながら全体主義国家に牙を向くのだが、頭のネジの外れたボーイには世界がビデオゲーム的な演出を伴って見えており、まるでエドガー・ライト監督の『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(同作の原題は『スコット・ピルグリム VS. 世界』、少年はすぐ世界と戦いがちだがボーイが相手にするのは確かに狂ったこの世界そのものだ)。その辺に落ちている物は何でも武器として使用するし、カメラは縦横無尽に動きまくるボーイをどこまでも追いかける! アドレナリン全開、非常に落ち着かない画面にこちらも思わず身体を揺する。音楽にはゲームの神・小島秀夫監督と「メタルギアソリッドV ファントムペイン」や「DEATH STRANDING」シリーズで組んだルドウィグ・フォシェルが配されており、非常に気が利いている。

何と言っても、スカルスガルドが素晴らしい! リブート版『IT』シリーズのペニーワイズ役でよく知られるが、同シリーズを見ていれば分かるだろう。彼は顔だけでも雄弁に語るのだ! 兄であるアレクサンダー・スカルスガルドが『ノースマン 導かれし復讐者』で披露したようなバッキバキの身体なのに、ボーイという役名にふさわしい純真さも同時に感じさせる。トラウマから立ち直れず内面的に少年のままである悲哀も、読唇術が失敗し何のこっちゃ分からん状態になった戸惑いも、彼の顔は全て引き受ける。もちろん肉体も大活躍だ! 超絶アクション『ザ・レイド』でお馴染み、ヤヤン・ルヒアン師匠がシャーマン役で出演しているだけあり、『ジョン・ウィック』シリーズにも負けないドラッギーなハイテンションアクションが繰り広げられる。拳にガジェットを装着してパンチを叩き込めば、たちまち敵の頭は沸騰だ! 師匠! 弟子はこんなに立派になりましたよ!

最初に予感した『マッドマックス』に似ている訳では別にない。とは言え、全く無関係ではないような気もする。どういうことなのだろう? ……そうだ! これは『マッドマックス』ではない。この感覚は“チャリ版『マッドマックス』”とも評される『ターボキッド』に通ずる! 脇役にいたるまでキャラが濃すぎて胸焼け必至。だが永遠の少年にはたまらない味だ。「ゲーム脳」だと? やかましい! この世は狂った人生ゲーム。ゲーマーこそが最強なんだ!

【ストーリー】
文明が崩壊した終末世界。狂気の女帝ヒルダ・ヴァン・デル・コイが支配する腐敗王朝のもと、少年〈ボーイ〉は家族を虐殺され、声と聴覚を失う。絶望の中で彼を導いたのは、幼い頃に夢中になったゲームの主人公の“内なる声”。その声に突き動かされ、謎の男シャーマンのもとで地獄の修行に身を投じた彼は、沈黙の殺戮者へと覚醒。そして年に一度の“粛清の日”ついに復讐の時が来る――。

【キャスト】
ビル・スカルスガルド、ジェシカ・ローテ、ファムケ・ヤンセン、ミシェル・ドッカリー、ブレット・ゲルマン、シャールト・コプリー、ヤヤン・ルヒアン、アンドリュー・小路、イザイア・ムスタファ、キャメロン&ニコラス・クロヴェッティ、クイン・コープランド、H・ジョン・ベンジャミン 他

【スタッフ】
監督:モーリッツ・モール
製作:サム・ライミ

 

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