MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

【今週公開の注目作】『侵蝕』一皮むけば同じ骨。だが、「人」を望めばそれも無駄骨。

◆今週公開の注目作

『侵蝕』
9月5日(金)全国ロードショー

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

“親ガチャ”というネットスラングがある。アタリ、ハズレがランダムで決まるスマホゲームのガチャ(またはその元であるガチャガチャ)のように、子どもが親を選べないことを身も蓋もない的確さで表した言葉だ。確かに、子どもが(恐らく)自分で望んで生まれてくるわけではない以上、子どもを作るのはそれが生物としての本能とはいえども親のエゴではあるのだろう。だがそうだとしても、親にとっては逆に“子ガチャ”であるのもまた確かだ。両親のどちらに似るのかを選べず、どれほどの才能に恵まれるのかを選べず、どのような性格になるのかも選べない。まあ、そのくらいなら良い。至極当たり前のことだ。しかしそもそも、子が「人」ではない場合があるなんて、誰が予想するだろうか?

韓国映画である本作『侵蝕』は大きく前半と後半に分かれていて、前半では“子ガチャ”の悪夢をこれでもかというほど見せられる。水泳教室で働くシングルマザーのヨンウンと、7歳の娘ソヒョンの窒息寸前のドラマだ。これはよくある、シングルマザーの貧しい生活を綴る物語ではない。明らかにソヒョンはフツウの女の子ではなく、他人を肉体的に、精神的に傷つけることを厭わない……むしろ楽しんでいる節さえある人でなし、悪魔的な子どもなのだ。自身もソヒョンに怪我をさせられた過去があり、周りからも白い目で見られ続けるのに疲弊したヨンウンは、ある日大きな決断をする……。

悪魔的な子どもという点で『オーメン』にも近いところがあるが、本作はむしろ地獄のような家族ドラマとホラー/スリラーの境界線がそれこそ“侵蝕”されたように曖昧で、もはやどちらなのか分からない作品と言える。そういう意味では『ヘレディタリー/継承』的でもある(ソニョンは祖母には懐いている)し、もっと近いのはエズラ・ミラーが衝撃的だった『少年は残酷な弓を射る』だろうか。「母の無償の愛」など嘘っぱち。どうやっても愛せない子どもは存在する。本作は「母性」に対する聖なるイメージを完膚なきまでに叩きのめす、絶望の母子ドラマだ。はっきり言うとソニョンはサイコパスに見え、そんな子をもってしまった親の気持ちに共感して辛くなる……のだが、時々ソニョンはそれでも母の愛を求めているような言動をする。もしかして、ヨンウンにも落ち度があったのだろうか? 勝手に被害者気分になっていた我々観客の胸に一抹の不安がよぎる。そして、物語は唐突に20年後に飛ぶ。

後半はヨンウンから、特殊清掃員の若い女性ミンの視点に切り替わる。過去が不明で家族がいないらしい彼女は、良くしてくれる周りの人間に対しきつく当たっている。新たに仲間となる孤児院出身のヘヨンは愛らしい天真爛漫さで人懐っこく慕ってくるが、それも遠ざける。なぜミンは愛を信じられないのか? そしてこの後半と前半はどう関係してくるのか? 本作が徹底的に突きつけてくるのは、人間の分からなさだ。自分以外は文字通り他の人、親も他人、子も他人、日々他人同士で互いの領域を侵蝕し合っている。透視のできない我々には、外見から中身を見通すことなどできやしない。そこに骨はあるだろうと検討がついても、それがどこの馬の骨かも分かりはしない。……なのに、愛と呼べるのかも不確かな温かさがふと骨身に染みたりして。ああ、人間は本当によく分からない。

 

【ストーリー】
ヨンウンは水泳インストラクターとして静かな生活を送っていたが、その日常は7歳の娘ソヒョンの奇妙な行動によって次第に崩れ始める。彼女の小さな手が巻き起こす恐怖は日に日に増してゆき、母娘の関係は闇に包まれていく。そして、20年後──。特殊清掃の仕事に携わるミンと、新たな同僚となったヘヨン。それぞれ生い立ちに暗い過去を抱える2人は共に暮らし始める。しかし、周囲で次々と起こる不可解な出来事をきっかけに、2人の生活に不気味な影が忍び寄る…。過去と現在、2つの物語が交錯したとき、逃れられない狂気が姿を現す。

監督・脚本:キム・ヨジョン、イ・ジョンチャン
出演:クォン・ユリ(少女時代)、クァク・ソニョン、イ・ソル、キ・ソユ
2025年/韓国/112分/カラー/2.39:1/5.1ch/G
字幕翻訳:平川こずえ
配給:シンカ
© 2025 STUDIO SANTA CLAUS ENTERTAINMENT CO.,LTD. All Rights Reserved.
公式サイト:https://synca.jp/shinshoku

 

関連記事

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』直に失われるとしても、それを守らない理由にはならない。

『プレゼンス 存在』ゴースト・ストーリーならぬ、“スペクター・ストーリー”。

『プロジェクト・サイレンス』国家の犬 VS 改造暗殺〇〇! 本当の獣はどっち?

『セブン』4K版|神は言った、「光あれ」と。しかし長雨の都会にその光は届かない。

『SKINAMARINK/スキナマリンク』目を凝らしても見えないのに、目を閉じても視える。

バックナンバー