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『スタントマン 武替道』 誰もを“スタン(痺れ)”させる最高のアクションが、映画を再興させると願って。

◆今週公開の注目作

『スタントマン 武替道』
7月25日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

映画のアクションシーンで、スタントマンではなく俳優自身が危険なアクションをこなすという行為は今や珍しくはなくなった。そのトップでガンバっているのがトム・クルーズなのはもちろんだが、ついこの前公開されたマーベル映画の『サンダーボルツ*』(と呼んでおく)でも、冒頭の高層ビルからの飛び降りシーンはフローレンス・ピューが自分で演じていた。それはそれで素晴らしいことだが、命を懸けて観客の視線を奪おうとするスタントマンたちの存在を抜きにしてアクション映画を語るのは不可能な話だ。スタントマン出身のデヴィッド・リーチ監督がまさにそれをテーマにして『フォール・ガイ』を撮り、そして数多くのハリウッドアクションにも多大な影響を与えている香港映画をテーマにして本作『スタントマン 武替道』は撮られた。

本作の主人公は2人いる。1人目は、若かりしころ情熱的なアクション監督であったが、撮影中の事故でスタントマンを下半身不随にしてしまい引退した老人サム。そして2人目は、駆け出しのスタントマンだが皆に軽んじられ、生活のために夢を諦めようとしている青年ロンだ。サムは人生最後に再度アクション映画に関わるチャンスを手に入れ、熱意を認めたロンを助手にして最高のアクションシーンを作り上げようと奮闘するが……。

これだけ聞くと、『カメラを止めるな!』にも通ずる映画作りの楽しさ・素晴らしさを謳うストーリーのようだが、本作はどこかビターな味わいがする。冒頭、若きサム監督が撮影しているジャッキー・チェン作品など往年の香港映画にありそうな目を見張る一連のアクションと痛ましい事故のシーンから、整骨院を営むサム老人の静かなシーンに繋がる。この時点で、本作は言いようもないほどのノスタルジーに溢れている。単に思い出を振り返っているからではない。もう失われてしまった過去へのどうしようもない郷愁の念からだ。本作ではっきり語られているのは、かつては栄華を誇った香港映画も、今はすっかり廃れてしまいつつあるという厳しい現実。本作がスタントマンに留まらず、映画そのものをテーマにしているのはサムのキャラクターにも現れている。

本作はお涙頂戴の美談ではない。サムは確かに面白いアクションを撮るが、現場での人間性は最悪だ。映画のためなら人が死んでも構わないと思っていそうな態度で、現在では確実にハラスメント認定されるだろう。実際、劇中でも時代遅れのやり方だと皆に批判される。しかしサムに限らず、映画というものは時に関わった人を傷つけ死なせてしまうけれども、それでも決して無視できない悪魔的な魅力を持っている。サムが「映画」を象徴していると言っても良いだろう。そのせいで、サムはクルーとも娘とも衝突してばかり。ロンにも無茶振りをして喧嘩もするが、2人は撮影を通じて親子にも似た絆を紡いでいく。

サムを演じたのは、本当に数々の香港映画でアクション監督を担当してきたトン・ワイ。ロンを演じるのは、日本でも非常に話題となった傑作香港映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』でソンヤッ(信一)役だったテレンス・ヤウ。ロンの兄貴分となるスターのワイを演じたのは同作で超印象的な敵ウォンガウ(王九)役だったフィリップ・ンだ。「すでに失われたもの」を巡る話で『トワイライト・ウォリアーズ』にも縁があるというのは寂しい気分にもなるが、同作で凄まじい動きを見せていた彼らの、より等身大で痛みも伝わるアクションが拝めるのは素直に嬉しい。ドラマとしても非常に心を掴まれる内容で、懐かしい人情に溢れている。特に、テレンス・ヤウの精悍な顔はそれだけでも見ていられる。俳優の代わりにスタントをこなすが、代わりのいない自分の人生にも懸命に飛び込んでいく彼らの武替道(スタントの道)を見逃さないように。……いや、どうせ目は離せないだろう。

【ストーリー】
80年代に活躍した伝説のアクション監督サム(森)は、撮影中の事故の責任を負って業界を去り、今は小さな整骨院を営む。ある日、かつての盟友である老監督から、新作のアクション監督を打診される。最後に一緒にやりたいという友人の願いを受け入れ、最近知り合った若く熱意のあるスタントマンのロン(龍)を助手にするが、現代の映画撮影では昔のやり方は通用せず、かつてサムの弟子だった主演俳優のワイ(威)や制作陣は、全てを犠牲にしてリアリティを追求するサムのやり方に反発する。さらに忙しさのあまり、結婚式を控える娘チェリーとの関係性も悪くなっていく。果たして、映画は無事に完成するのだろうか……。

【キャスト】
トン・ワイ、テレンス・ヤウ、フィリップ・ン、セシリア・チョイ 他

【スタッフ】
監督:アルバート・レオン&ハーバート・レオン

公式サイト:stuntman-movie.com
©2024 Stuntman Film Production Co. Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

 

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