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『ストレンジ・ダーリン』映画は真っ赤なウソを吐く。血まみれのウソを。

◆今週公開の注目作

『ストレンジ・ダーリン』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

人間誰しも、騙されると腹が立つ。騙された上に金品も奪われたのならなおさらだ。なればこそ、詐欺は立派な犯罪なのである。ところが、それにはいくつかの例外がある。例えばマジック(手品)。そしてエンタメ作品……その中でも、特に映画はそうだ。

間違いなく、映画はウソでできている。それは多くの映画がフィクション、つまり作り話だから……という意味に留まらず(ドキュメンタリー映画だって立派なウソつきなのだが、それは一旦置いておいて)、やはり主に映されているのが役者の“演技”だからだ。どれほど現実味のある演技でも、クオリティが監督の求めたレベルより上でも下でも、それは基本的には台本の通りに表現されているものだ。しかし、観客はそれらのウソに喜んで騙される。喜んで決して安くはない鑑賞料金も払うし、決して短くはない上映時間にも付き合う。映画において“詐欺”にあたるのは、それらあらゆるウソが観客の期待を大きく下回る場合だけだ。さて、では本作『ストレンジ・ダーリン』はというと、大ウソ吐きも大ウソ吐き、観客を騙すことに特化したタイプの作品と言って良い。ただし、“大詐欺師”では決してない。

映画と手品は観客を楽しませるウソという点で共通しているが、映画で素直に驚けるマジックを描くのは難しい。今どきの映像技術ではほぼ何でも表現できてしまうし、そうでなくとも編集によって観客に誤った思い込みをさせ、真実からそれとなく目を逸らさせ、思いのままにコントロールできてしまう。映画自体がすでに一種のマジックのようなものなのだ――ところで、筆者はどうしてこのような回りくどい話をしているのか。早い話、本作はネタバレ厳禁、少しでも何か言おうものならすぐに見る者の楽しみが損なわれてしまう危険性があるからだ。ウソは含まれていないにせよ、下記の、物語の冒頭も冒頭の部分だけを書いたに過ぎないこの公式のあらすじですら、“編集”が行われていると言わざるを得ない。なぜなら、6章立ての本作のストーリーは順番通りに始まりから進んではくれないのだから。マジックの基本である騙しのテクニック、ミスディレクション。それがふんだんにまぶされたのがこの『ストレンジ・ダーリン』だ。

暴力的な男が逃げる女を追いかける。すでに類似作が何千本もある使い古されたシチュエーションのスリラーのはずが、どれほど予想外の結末にたどり着くのか。章が(作為的な順番で)進むほどに、これまで見てきたものは全く違った意味を持つように感じられ、展開予測の土台にしていたものは瞬く間に足下から消える。救いようがないほどに愚かな勘違いをしていた我々は、高みにある真実を手にする代わりに、掛けられていた縄に首を締められる。そして絶望的な敗北のその瞬間に例えようもない快楽が押し寄せ、そのまま昇天するのだ。我々が大好きな、しかし決して思い通りにはならない、奇妙な魅力を放つ「映画」なるもの。それこそまさに、“ストレンジ・ダーリン”なのだ。

『ストレンジ・ダーリン』
2025年7月11日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー

<STORY>
シリアルキラーが町を恐怖に陥れる中、モーテルの前に止まった一台の車。中には、今夜出会ったばかりの男女の姿が。「あなたは、シリアルキラーなの?」「まさか」…。一夜の過ちが、予測できない凶悪な連続殺人へのスパイラルとなっていく。あなたは、愛のワナに落ちるー。

監督・脚本:J.T・モルナー
キャスト:ウィラ・フィッツジェラルド、カイル・ガルナー
2023年/アメリカ/シネマスコープ/5.1ch/97分/原題: STRANGE DARLING/映倫PG12
配給:KADOKAWA
(C)2024 Miramax Distribution Services, LLC. ALL rights reserved.
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/strangedarling

 

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