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『シンシン/SING SING』~俺たちは人間に戻るために集まっている~

◆今週公開の注目作

『シンシン/SING SING』

 

<ストーリ―>
NYに実在する最重警備のセキュリティ<シンシン刑務所>。無実の罪で収監された男ディヴァイン G は、刑務所内の収監者更生プログラムである<舞台演劇>グループに所属し、仲間たちと日々演劇に取り組むことで僅かながらに生きる希望を見出していた。そんなある日、刑務所いちの悪党として恐れられている男クラレンス・マクリン、通称“ディヴァイン・アイ“が演劇グループに参加することになる。そして次に控える新たな演目に向けての準備が始まるが――。


(写真手前)主演:コールマン・ドミンゴ/  ジョン・“ディヴァイン G”・ウイットフィールド役
(写真奥)クラレンス・マクリン/  “ディヴァイン・アイ”本人役 現在はプロの俳優として活躍

 

【RTA=Rehabilitation The Artの略 芸術更生プログラムで心の奥を探る】

芸術更生プログラム。聞きなれない言葉だが、本作品を見てもらえばそれがどれだけ収監されている彼らにとって有効かが分かる。

映画の中で舞台公演の脚本を書くのは主演のコールマン・ドミンゴ演じるディヴァインG。彼はシェイクスピアなどシリアスな脚本を書いて仲間と共に演じてきた。

そして次回の演目は何にしようかと話し合っているところへ、このプログラムに入ってきたばかりのディヴァイン・アイが「喜劇にしないか」というアイデアを出す。皆から出てくる奇想天外な発想は「ひっくるめれば喜劇になる」ということになった。そして、演出担当が脚本を書いてくることになった。

見ていくと、常にRTAのメンバーは椅子を円のように配置して話しあっていることに気付く。

誰もが強い自己主張はしないし、相手を否定するようなことも言わない。

率直に言うと、筆者は有罪となった彼らの気質として「けんかっ早い」というイメージがあった。皆が建設的に話し合い、決定したことをきちんと進行していく場面では「実話なの?」と信じられなかった。

練習中には、互いの演技を褒め合い、肩を寄せ合う。まるで大人の学園祭のようだ。

彼らは芝居をしている時、無邪気であった。

 

【プロセスを信じて皆で支え合おう】

この言葉は作中で皆の指南役となる演出担当の者が言うセリフだが、これはこの作品の大きなテーマであると思う。

人生は結果ではない。プロセスが大切なのだと思わせてくれる。

特に主人公のGは無罪なのに有罪になった人だ。

しかし、シンシンにいる間、希望を捨てず、脚本を書くことで自分を保っている。

このプロセスが大切なのだと思う。心情を言語化するのだ。

それにより、彼はいわばRTAのリーダー的存在となってきたのではないだろうか。

登場人物を理解し脚本を書くことで、人間理解が深まり、常に仲間を助けようとするようになった。このプロセスが、演劇を通した更生にマッチしたわけだ。

そしてこのプロセスにおいて、筆者がとても大切だと感じたのは全員が目をつむり、演出者の言葉からひらめきを得て、自分のことを振り返ることである。

遠い幼少期の楽しかった日々のことを語る者、愛する人や家族との思い出など、どれも「幸せだった記憶」の振り返り。

これが非常に大切だ。この振り返りをするからこそ、彼らは演劇を通して別人となる。

「感情の蓋を開けて」役者になるのだ。

収監されている人達に、自分たちのしたことを振り返らせて反省させてもあまり効果はない。

それよりも楽しかったことを思い出し「またあの頃に戻りたい」という希望を持つことが、彼らを、情熱的な芝居へと促す。

 

【リーダーと反発者の間に芽生える友情】

ありふれたストーリーだな、実話か?と最初は穿った見方をした筆者。

しかし、ディバインG役のコールマン・ドミンゴは本物の俳優で、最初は反発していたディバイン・アイ役はRTA出身の本人が演じている。俳優と本人が真剣勝負で作中で芝で芝居をするシーンは、どちらも本物の俳優のように見える。

二人の関係は最初こそ「教師と生徒」だったが、あることをきっかけに「対等」になっていく。

この間に繰り広げられる感情の機微は、やはり俳優コールマン・ドミンゴでなければできない表現であったと思う。

スクリーンいっぱいに映し出される彼の悲しみは、ただ涙を流しているだけではないと思った。

あたかも心の中にあった瘡蓋がはがれて再出血する痛みをこらえているようだった。

さてこの後、RTAのメンバーは大切なものを失い、だがその中でも希望を忘れずに演劇に熱中する。

「観客はこう思っている。頭を垂れ、反省して出演しろってな。(王様役に向かって)だけど堂々としているんだ!この世の全ては俺のものってな」

RTAを卒業していった彼らも、これから卒業していく彼らも、この気持ちがあれば、収監されていた過去に蓋をせず生きて行けるのではないだろうか。

彼らが、どのようにして自分を解放し、時に激昂し、時に支え合っていくか、そのプロセスはぜひ劇場で見て頂きたい。

 

『シンシン/SING SING』
4月11日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国順次公開

【ストーリー】
NY、<シンシン刑務所>。無実の罪で収監された男ディヴァイン G は、刑務所内の収監者更生プログラムである<舞台演劇>グループに所属し、仲間たちと日々演劇に取り組むことで僅かながらに生きる希望を見出していた。そんなある日、刑務所いちの悪党として恐れられている男クラレンス・マクリン、通称“ディヴァイン・アイ“が演劇グループに参加することになる。そして次に控える新たな演目に向けての準備が始まるが――。

【キャスト】
コールマン・ドミンゴ、クラレンス・マクリン、ショーン・サン・ホセ、ポール・レイシー

【スタッフ】
監督:グレッグ・クウェダー

原題:SING SING | 2023年 | アメリカ | カラー | ビスタ | 5.1ch | 107分 | 字幕翻訳:風間綾平 | G
配給:ギャガ © 2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/singsing/
公式 X:@singsing_JP

 


文:栗秋美穂
ドキュメンタリー考察ライター。
エッセイで多数の賞を受賞。その記事はインタビューを始め、物語風なのが特徴である。また独自の視点にも定評があり、自身の経験をかさねた考察記事が好評。閲覧数やリポストも安定している。

 

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