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『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』直に失われるとしても、それを守らない理由にはならない。

◆今週公開の注目作

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

クーロン(九龍)城。具体的なイメージは湧かなくとも、聞いたことのある響きだろう。厳密に言うと「クーロン」は日本だけの読み方らしいが、その呼び名で広く知られる九龍城砦は増築に増築を重ねたアメリカのウィンチェスター・ミステリー・ハウスや、高知県高知市に実在する沢田マンションの超巨大版、カオスを極めたあまりにもフィクショナルで複雑怪奇な実在の建造物だった。スラム化しており1990年代前半には解体されてしまったので今はもう残っていないが、当時の画像を見ると、その魔性に無性に心がざわつく。ちなみに、この九龍城砦をモデルにした「ウェアハウス川崎」という異様なゲームセンターが神奈川県川崎市にあったが、こちらも2019年には閉店してしまった。今は幻の、現代のロマンである。

さて、本作『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』はそんな九龍城砦をフィーチャーしている。香港の作家・余兒の小説を原作に、0.03平方キロメートルの面積に立つ12階建ての迷宮に数万人もの人間がぎゅうぎゅうに押し込められていた1980年代を描いた香港アクション映画だ。物語は身寄りのない男・陳洛軍(チャン・ロッグワン)が黒社会(中国の裏社会)とトラブルを起こし、城砦に逃げ込むところから始まる。城砦は複数の勢力の均衡が時に崩れながらもどうにかギリギリで成り立っている場所だったので、洛軍の存在は疫病神以外の何物でもない。助けを求める洛軍は城砦を治める龍捲風(ロンギュンフォン)にコテンパンにやられるが、情けで小さな仕事をもらってからここが自分の居場所だと強く感じるようになり……。

建物の非現実感と、大の大人が四方八方に吹っ飛ばされまくる香港アクションのためにかなり少年漫画のようなテイストになっているが、実際の時代背景があるので唯一無二の不思議なリアリティを保っているのが面白い(『カンフーハッスル』より少しリアル、くらいのレベルだろうか)。城砦を奪い取ろうとするあくどいギャング(当たり前か)のボスを演じる、ご存じサモ・ハンは現実では73歳を迎えたばかりだが、バリバリにカンフーアクションを披露しているし、洛軍を演じるレイモンド・ラムは45歳。しかし、キャラクター全員が男子高校生くらいのパワフルさとアツさで躍動している。対立していた昨日の敵が友となったり、因縁の相手と素手でぶつかり合ったりと、そういった意味でも少年漫画のようだ。

谷垣健治が監督したアクションについては、思いも寄らない人体の動きと容易に想像できる痛みのバランスが絶妙で、非常に見応えがある。まるで格闘ゲームの必殺技・必殺コンボを実写化したかのよう。マ・ドンソクのビンタで悪党が弾け飛ぶのを見ると何にも例え難い快感を覚えるが、本作でも各キャラクターの大技が決まる度にカタルシスのつるべ打ちだ。フィクションとノンフィクションの融合による陽炎のような揺らめきが本作独自の味であり、それが物語世界で直になくなってしまう黄昏の九龍城砦へのノスタルジーを強めている。「蜃気楼」とは、龍の類である蛟(みずち)が吐いた息が楼台(高い建物)を象ったという伝説に由来するらしいが、龍捲風が支配したこの蜃気楼は確かに存在していたのかもしれない。今もそれを覚えているのは、迷宮を吹き抜けた風だけだ。

【ストーリー】
九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)――かつて無数の黒社会が野望を燃やし、覇権を争っていた。80年代、香港へ密入国した若者、陳洛軍(チャン・ロッグワン)は、黒社会の掟に逆らったことで組織に追われ、運命に導かれるように九龍城砦へ逃げ込む。そこで住民たちに受け入れられ、絆を深めながら仲間と出会い、友情を育んでいく。やがて、九龍城砦を巻き込んだ争いが激化する中、陳洛軍たちはそれぞれの信念を胸に、命を懸けた最後の戦いに挑む――。

【キャスト】
ルイス・クー、サモ・ハン、リッチー・レン、レイモンド・ラム、フィリップ・ン 他

【スタッフ】
監督:ソイ・チェン
アクション監督:谷垣健治
音楽:川井憲次

 

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