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『スピーク・ノ・イーブル 異常な家族ー』“悪”なんかよりよっぽど最悪なのは、“人の良さ”。

◆今週公開の注目作

『スピーク・ノ・イーブル 異常な家族ー』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

普通人間は、相手から好意的に接されるとそれをお返ししたくなる。誰かに親切にされたなら、大抵の人は何かしらお礼をしなければ、と思うだろう。「好意の返報性」というやつだ。だからこそビジネスにおいて、一見売り手の損にもなりそうな試食などのタダのお試しサービスが功を奏すのだ。一度お試しを受け入れてくれた客には、もう少し踏み込んだセールストークがしやすくなる。そして人間は、自身の行動に一貫性を保ちたいとも考えるので、その客は次のお願いも聞き入れてくれやすくなる。いわゆる「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」だ。しかし、よく言うだろう。“タダより高いものはない”。善人が、この人間の性質を利用する悪魔と出会ってしまうと、直視できないほどの悲劇が起きる。「最初からドアを開けなければ良い」? 問題は、悪魔の家に招かれた場合なのだ。悪魔が足を滑り込ませるのは、心のドアの隙間なのだから。

その恐ろしさを教えてくれるのが本作『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』だ。本作は、ハリウッドで良質なホラーを作り続けているブラムハウス・プロダクションズによるリメイク作となる。オリジナルは、今年の5月に日本公開されたばかりの北欧ホラー『胸騒ぎ』。同作は公開時にとんでもない胸糞ホラーとして話題になったため、認知している方も少なくないだろう。もちろん基本的なプロットは両作とも同じなので『胸騒ぎ』の方で説明すると、主人公であるデンマーク人夫婦が旅先で人の良さそうなオランダ人夫婦と出会い、仲良くなってオランダの家にお呼ばれするが、そこでのおもてなしがどれも微妙に嫌悪感を抱かせるもので……という内容だ。はっきり言って終盤に差しかかるまでは、緊張感はあれどホラー度の高い描写はほとんどないのだが、ラストで全てが持って行かれる。こちらの魂まで。

オランダの超有名な胸糞映画として『ザ・バニシング ‐消失‐』があるが、『胸騒ぎ』の鑑賞後に抱く虚しさは『ザ・バニシング』と似ているかもしれない。『スピーク・ノー・イーブル』の方では、キャラクターの名前は踏襲されつつ、アメリカ人夫婦がイギリス人夫婦に招待されるというストーリーに変えられている(面白いことに、イギリス人夫を演じるジェームズ・マカヴォイは、立場が真逆の『胸騒ぎ』のデンマーク人夫を演じたモルテン・ブリアンに似ている)。『胸騒ぎ』も『スピーク・ノー・イーブル』も外国の話に見えて、かなり日本人向けの作品と言える。悪気はなさそうだが少し失礼な相手に対し強くNOを突きつけられないまま、愛想笑いでやり過ごそうとした経験は一度や二度ではないだろう。

しかし、そういった消極的な態度をとる人間は、悪魔の格好の餌食になる。『胸騒ぎ』の英題でもある「Speak no evil」は、「See no evil, hear no evil, speak no evil.(悪いものを見ざる、聞かざる、言わざる)」ということわざの一部だ。一見善きことのように思えるが、他人の悪い部分から目を背け続けた人間は、目も当てられない結末を迎える可能性だってある。そういう意味では、“人の良さ”こそが最大の悪なのだ。我々観客に、善良なはずの主人公の方を憎ませるほどに……とは言え、本作はハリウッドリメイク作。さすがに、衝撃の度合いではオリジナル版が勝っている(というより、ハリウッドがその部分で対抗するわけがない)。ある意味、本作はオリジナル版で絶望を味わった方への救いと言えなくもない。オリジナル版未鑑賞の方は、できれば予告編は見ずに劇場へ向かった方が良いだろう。この“悪”について、よく見て、よく聞いて、よく話すために。

【ストーリー】
あるアメリカ人家族が、旅行先で意気投合したイギリス人のパトリック一家の自宅に招待され、一緒に過ごすことに。人里離れた場所で休日を満喫していたが、パディの“おもてなし”に小さな違和感が積み重なっていき、やがて、その裏に隠された、想像を絶する恐怖を知ることになる――。

【キャスト】
ジェームズ・マカヴォイ、マッケンジー・デイヴィス、アシュリン・フランチオージ、アリックス・ウェスト・レフラー、ダン・ハフ、スクート・マクネイリー 他

【スタッフ】
監督・脚本:ジェームズ・ワトキンス

公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/speaknoevil

 

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