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『悪魔と夜ふかし』 命に代わるものはない。魂で買えぬものもない。

◆今週公開の注目作

『悪魔と夜ふかし』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

 

悪魔(サタン)は実在するのだろうか。……と言われても日本人の大半にはあまりピンと来ないだろうが、実在しようとするまいと、人間社会に多大な影響を及ぼしてきたのは事実だ。1980年代には、アメリカで「サタニック・パニック」が起こった。悪魔崇拝者(サタニスト)が子どもを虐待や犯罪の標的にしているという考えが社会を支配し、サタニストと見なされれば魔女狩りよろしく社会的に抹殺されたのだ。1993年には、“悪魔的音楽”メタルを愛聴していた若者たちが男児殺害犯として死刑宣告を受けるも、冤罪の可能性が濃厚な「ウェスト・メンフィス3」事件も起こった。そして現在のアメリカに蔓延る陰謀論ないし陰謀論者「Qアノン」の主張のひとつは、「世界の影の支配者は小児性愛者のサタニスト」だ。悪魔は実在はしなくても、もはや社会的に存在している、と言える。

さて、本作はそんな悪魔を扱った、かなり個性派のレトロテイストなホラーだ。1970年代に放送されていたという設定の、架空の司会者ジャック・デルロイによる架空の深夜トーク番組「ナイト・オウルズ(夜ふかしする人)」を題材にしている。ちなみに、ライバルは実在の司会者ジョニー・カーソンによる実在の番組「ザ・トゥナイト・ショー」だ(『シャイニング』でジャック・ニコルソンがドアの穴から「Here’s Johnny!(ジョニー登場)」と叫ぶのはこれが元ネタ)。大人気番組相手に健闘していたデルロイだが、最愛の妻を亡くし、視聴率も低迷し始めたために、ハロウィンの夜に大きな賭けに出る。悪魔憑きとされる少女をゲストに迎え、放送中に実際に悪魔を呼び出そうとしたのだ……。本作は、神回ならぬこの“悪魔回”のテープとその舞台裏映像を編集で繋いだ疑似ドキュメンタリー、ファウンド・フッテージものである。

映画館でTVショーを見せられる(しかも架空の)という不思議な機会になるが、その奇妙さ以上の面白さは確実にある。「ナイト・オウルズ」が細部まで作り込まれているので、胡散臭くも興味深い番組そのものを楽しめるのだ。ゲストの、死者の声を聞けると謳う怪しい男クリストゥが場を盛り上げ、デルロイは疑いつつもそれに乗っかっていく。スピリチュアルな能力者のペテンを暴くのを生業としている男ヘイグが特に良い味を出していて、リアルタイムで起きる怪奇現象に対して現実的な観点でツッコミを入れていくので、我々観客(観覧客?)は何が本当で何がトリックなのかをハラハラして見守ることになるのだ。だが、真打・悪魔少女のリーガン……ならぬリリーが現れるとヘイグは途端にピエロと化す。

司会者の所作が板に付いているデヴィッド・ダストマルチャンは、ジェームズ・ガンの『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』でポルカドットマンを演じていた。彼のデビュー作は、奇しくも同じDCの『ダークナイト』だった。しかも、役はあのジョーカーの手先。ジョーカーは人間を惑わし人の道から踏み外させる、まさに悪魔のような存在である。悪魔は実在しなくても社会的に、またはサンタと同じように多くの人の心の中にはいるはずだ。ダイエット中に誘惑して、ハイカロリーの食べ物への欲求を高めるくらいならばまだ良い。だが「魔が差す」と言うように、心の隙間に入り込んで凶悪な事件を起こさせる場合もあるかもしれない。物語における悪魔は往々にして、魂を代償に願いを叶える残酷な願望機として登場する。「命を代償に」ではない。あくまで魂、つまり倫理観。真人間としての命だ。

欲望という名の電車はひた走る。車窓に映るのはバラ色の景色。しかし向かう駅が極楽とは限らない。ひとつ興味深い話を紹介しよう。聖書において、最も人間を殺しているのは悪魔ではない。神だ。殺した数も、悪魔が10人なのに対して神は少なくとも200万人超と言われている。そして、神に次いで人間を殺しているのは、きっと神の模造品である人間だろう。悪魔は元々天使だったためか、神の下位互換より頭が良いからか、直接手を下さない。そういう意味では、“あくまで”本当に怖いのは人間だ。ハロウィンが舞台ということもあり、正直本作はストーリーの意外さではパンチが少し足りないが、深夜のテンションは時に想像を超えた悲劇を巻き起こす。目を開けたまま、この悪夢を見届けよ。

『悪魔と夜ふかし』
10月4日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次ロードショー

【ストーリー】
1977年、ハロウィンの夜。テレビ番組「ナイト・オウルズ」の司会者ジャック・デルロイは生放送でのオカルト・ライブショーで人気低迷を挽回しようとしていた。霊聴、ポルターガイスト、悪魔祓い……怪しげな超常現象が次々とスタジオで披露され、視聴率は過去最高を記録。しかし番組がクライマックスを迎えたとき、思いもよらぬ惨劇が巻き起こる――。

監督・脚本・編集:コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズ

出演:デヴィッド・ダストマルチャン、ローラ・ゴードン、フェイザル・バジ、イアン・ブリス、イングリット・トレリ、リース・アウテーリ

原題:LATE NIGHT WITH THE DEVIL|オーストラリア|カラー|ビスタ|5.1ch|93分|字幕翻訳:佐藤恵子|PG-12
©2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED 配給:ギャガ

 

 

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