MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

『サユリ』人間は二度死ぬ。一度目は肉体的に、そして……。少年よ、死を超えていけ!

◆今週公開の注目作

『サユリ』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

幽霊は恐ろしい。理解できない存在だから? それもある。だがメインの理由ではない。ホラー映画を好む方ならばよくお分かりだろう。幽霊に関わると死ぬからだ。しかし、なぜ大抵のホラーでは幽霊に、よりにもよって物理的に殺されるのだろうか。極度の恐怖や緊張感のために、心臓麻痺などで死ぬのなら分かる。だが首をゴキャッとされたり、全身の骨をポキャッとされたりと、バケモノじみた怪力でやられてしまうのもしばしばだ。こちらからは触れないのに、幽霊からは触れるというのは不条理ではないか。

まあ、死んでいるのにこの世に残っている存在なのだから、不条理なのは当然なのだろう。押切蓮介の同名マンガを原作とする本作『サユリ』も、そんな幽霊に関するホラー映画である。物語は、仲の良い普通の家族・神木家が中古の一軒家に引っ越してくるところから始まる。三世代同居で祖母の春枝が認知症であるため、介護などの問題が浮上するのかと思ったら、それどころではない事態に。実はこの家にはかつて、引きこもりの娘に悩まされた別の家族が住んでいた。この娘がサユリであり、自室からろくに出ずに暴食に明け暮れた彼女は異様な巨体となり、意見する者には暴力を振るう、家族の誰にも止められない厄介者になってしまった。本当にいたたまれない。結果、何らかの事件が起き、サユリの家族は引っ越していった……。そう、「家族」は。サユリの霊はこの家に残ったままだったのだ!

死してなお、触れる者皆傷つける尖ったナイフのようなサユリ。神木家の面々はサユリの気配に何となく気づきながら、日々を過ごしていく……と思いきや、公式でネタバレされているので言ってしまうが、あっという間に神木家はほぼ全滅する。鑑賞前に予想していた展開は、何と映画の前半で出尽くしてしまう。最悪の絶望の折り返し地点から何が始まるかは鑑賞時の楽しみのため伏せるが、ここから本作は全くの別物に変異する。生き残ったのは中3の長男・則夫と認知症の春枝のみ、例え生身であっても倒せなさそうなサユリにどう立ち向かうのか。……いやはや、「どん底に落ちたら後は上がるだけ」とはよく言ったものだ。

余談だが、以前筆者は殺し屋に追いかけられる夢を見た。明晰夢のように夢だと認識できていなかったので死に物狂いで逃げていたが、そのうち袋小路に追い詰められた。そして頭を銃で撃ち抜かれ、頭に穴が空いた感覚を意識し、脳が活動を止めようとする寸前、ふと気づいたのだ。人は「あっ死んだ」と思ってしまった瞬間に死ぬのではないかと。そこからは脳をフル回転させ、「まだ死んでないまだ死んでない」と強く自分に言い聞かせた。すると、両膝は崩れ落ちることなく、視界がブラックアウトすることもなく、筆者は死なずに済んだ。何と。世界の真理に辿り着いてしまったぞ!

ナンシー・シナトラも歌っている。「You Only Live Twice(あなたは二度生きる)」と。ご存じ、『007は二度死ぬ』の原題であり主題歌でもあるが、負けを認めないうちはまだ負けていないのだ。肉体が死んだとしても、それは1点取られただけに過ぎない。1点取られただけで負けるスポーツなどない。そこからは精神力の勝負であり、2点取り返せば良いだけなのだ。幽霊とはまさに精神力だけでこの世に残っている存在。立ち向かうには精神力をぶつけるしかない。少年よ、死を乗り越え、そして師を超えるのだ!

【ストーリー】
夢の一戸建てマイホームに引っ越してきた神木家。しかし、家族7人の幸せな時間も束の間。どこかから聞こえる奇怪な笑い声とともに、一人ずつ死んでいく家族―。中学3年生の則雄は、同級生の住田に突然話しかけられ、「気をつけて」と言われる始末。そんな神木家を恐怖のどん底に突き落とす呪いの根源は、この家に棲みつく少女の霊“サユリ”だった……。次々と起こる不可解な現象の中、遂に則雄にも謎の少女が近づいてくる。その時、パニック状態に陥る則雄の前に現れたのは、認知症が進んでいるはずの“ばあちゃん”だった。「いいか。ワシら二人でさっきのアレを、地獄送りにしてやるんじゃ!復讐じゃ!!」 こうして、残された則雄とばあちゃんによる壮絶な復讐劇が、いま始まるー!

【キャスト】
南出凌嘉、根岸季衣、近藤華、梶原善、占部房子、森田想、猪股怜生、きたろう 他

【スタッフ】
監督:白石晃士
原作:押切蓮介「サユリ 完全版」(幻冬舎コミックス刊)
脚本:安里麻里、白石晃士
配給:ショウゲート

2024年/日本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/108分
©2024「サユリ」製作委員会/押切蓮介/幻冬舎コミックス 

公式サイト:https://sayuri-movie.jp/

 

 

関連記事

『キラー・ナマケモノ』ヤツに殺されるほど怠惰な者は大人しく死んでおけ!殺人鬼の正体は、ま、マサカー!?

『マンティコア 怪物』内なる声はマンティコアの叫びか、セイレーンの歌か。どちらにせよ、“耳を塞ぐ”ことはできない。

『貴公子』幸薄青年のハートを射止めるのは誰だ!?圧倒的強者たちに逆指名を受けまくるミステリアスなノンストップスリラー!

『インフィニティ・プール』命の洗濯のはずが命の選択に。境界が歪んで崩れて混じり合う、自己崩壊サイケ・サイコスリラー。

『四月になれば彼女は』恋愛も、継続は力なり。愛を終わらせたくなければ、終わらないように努力しよう。

 

バックナンバー