MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

『ドッグマン』犬の愛。それが無償のものならば、最も神からの愛に近いのかも知れない。

◆今週公開の注目作

『ドッグマン』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

ケイレブ・ランドリー・ジョーンズという俳優をご存じだろうか。言うまでもなく本作『ドッグマン』の主演だが、彼の外見は「不健康そう」、その一言に尽きる。肌は真っ白で痩せており、日光に曝されずに生きている吸血鬼のようだ。ジョーンズの初主演作は、ホラーの巨匠デヴィッド・クローネンバーグの長男でその血を濃く引き継いだブランドンの初監督作、『アンチヴァイラル』だった。セレブへの憧れが行きすぎて、セレブが感染したウィルスまでが売買されている歪んだ未来が舞台のSFスリラーで、ジョーンズは自分に注射することで他人にバレずにウィルスを持ち運び闇市に横流しする男を演じていた。身体的に、精神的に病んでいる人物(あくまで見た目)、それがケイレブ・ランドリー・ジョーンズなのだ。

そんな彼が今回演じるダグラス・マンロー(ニックネームがダグ/Dougでドッグ/Dogに似ている)も中々濃い味付けの役柄だ。ダグの父親は暴力的な毒親で、幼少期に反抗したために多くの犬たちとともに犬小屋に監禁された経験があり、その中で起きた出来事によって下半身に障害が残った。家族との関係は最悪ながら犬たちとは強い絆で結ばれたダグは大人になり、女装し、何でもこなせる犬たち(誇張ではない)を引き連れた車椅子の“ドッグマン”になっていた…と、マイノリティ要素全部乗せの強烈なキャラクター造形だ。ダグのセクシャリティが明確でないので、ドッグ“マン”と呼んでも実際良いものか悩むところではある。いっそのことドッグ“パーソン”と呼ぶべきか? Dog Personは英語で、猫派(Cat Person)に対する「犬派」を意味するので間違ってはいない。犬派の部分に関しては明らかにマイノリティではないが。

主人公像がそういった具合なので、ストーリーの語り口も少々不思議だ。本作はジャンルを特定するのも難しい。強いて言うなら、クライムドラマ…だろうか? ダグは悪人ではないがギャングに対抗できるほどの犬使いの才能に溢れているので、手を差し伸べてくれない表社会ではなくDog-eat-dog(弱肉強食)な裏社会に近い世界で生きている。冒頭はいきなりダグが逮捕されるところから始まり、壮絶な過去を回想していく作りなので、ダグがいかにしてドッグマンとなったのか、何をして逮捕されたのかが徐々に明らかになるミステリーとも言える。もちろん、犬が大活躍する爽快なアクションシーンもある。Puppy Love(子犬の愛=初恋)も。

語弊はあるが、リュック・ベッソン版『ジョーカー』とも形容できそうな内容だ。しかも音楽要素もあるので、そういう意味では続編『Joker: Folie à Deux(原題)』の方に近いのかも知れない。いや、Folie à Deux(フォリ・ア・ドゥ)というよりFolies Bergère(フォリー・ベルジェール、パリ最古のミュージックホール)か? もちろんヒロインはハーレイ・クインではなくダグか犬たちのどちらかだ。音楽シーンの演出に関しては、せっかくバンド活動もしていたジョーンズを起用しているのにもったいない部分もあるが、本作において彼が最も力を入れて演じた場面であるのは間違いないだろう。

本作のテーマのひとつとして、Semordnilap(シモードニラップ)があると思う。シモードニラップとは、Palindromes(パリンドロームス、回文)を逆に綴った造語だ。回文は前から読んでも後ろから読んでも同じ文字列になるが、シモードニラップは後ろから読んだ時に違う意味になる言葉を指す。DogがGodになるように、Live(生きる)がEvil(悪)になるように、Rats(ドブネズミ)がStar(スター)になるように…。不幸の連続に思えたダグの人生もまた、終わりから遡って振り返っていけば…また違った意味を持つのかも知れない。

【ストーリー】
ある夜、警察に止められた一台のトラック。運転席には負傷し、女装をした男。荷台には十数匹の犬。“ドッグマン”と呼ばれるその男は、半生を語り始めた――。犬小屋で育てられ暴力が全てだった少年時代。犬たちの愛に何度も助けられてきた男は、絶望的な人生を受け入れて生きていくため、犯罪に手を染めてゆくが、“死刑執行人”と呼ばれるギャングに目を付けられ――。

【キャスト】
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジョージョー・T・ギッブス、クリストファー・デナム、クレーメンス・シック、マリサ・ベレンソン、グレイス・パルマ 他

【スタッフ】
監督・脚本:リュック・ベッソン

 

関連記事

『アクアマン/失われた王国』強大VS兄弟!この碧き唯一無二の世界を、その目に焼き付けろ!

『エクスペンダブルズ ニューブラッド』老兵は死なず。年明けから初日の出のように燃え上がれ!

『サンクスギビング』血の滴る収穫の恵みに感謝しよう!ありそうでなかったホリデー・ホラーの誕生だ!

『PERFECT DAYS』平山に会いたくて、この先も何度だってこの映画を観るのだろう。

『ポトフ 美食家と料理人』登場する美食がとにかく美味しそうでお腹がすく…傑作グルメ映画!

バックナンバー