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『ジュリア(s)』誰だってマルチバースに生きている。偶然という名の必然を願って。

◆今週公開の注目作

『ジュリア(s)』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

最近はマルチバースをテーマにした映画が多い。マーベルなどのヒーロー映画や、今年のアカデミー賞で7冠に輝いた『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』もそうだ。マルチバースやパラレルワールドを扱った作品では、“この”地球に存在する“この”自分とは似て非なる、別の地球に暮らす別の自分が描かれる。壮大な設定のため、そういった作品は大抵SFになる。しかし、未来的なテクノロジーに関する描写を脇に置いておけば、今の自分とは違う選択を取ったために他の人生を歩むことになった自分の話とも捉えられる。それは誰もが一度は思い浮かべる、確かに頭の中に存在した“人生”だ。

人生を形作るのは選択だけではない。偶然のタイミングという、自分にはどうしようもない要因によっても人生は左右される。家を出るのがいつもより1分遅れれば目当ての電車には乗れないかもしれないし、電車が遅れれば希望の時間に目的地にたどり着けないかもしれない。ほとんどの場合は大きな影響は及ぼさないが、時にはそんな些細な違いが人生を変える。それをそのまま映像化してみせたような作品が本作『ジュリア(s)』だ。

世界的なピアニストを目指すジュリアが、ベルリンの壁崩壊を知る1989年から物語は始まる。厳格に育てられてきたジュリアはいても立ってもいられなくなり、今までの“良い子”の殻を破ってでも友人とともにこの世界的事件に立ち会おうとする。本作では何と、それに成功するパターンと失敗するパターンの両方が同時並行的に描かれている。しかも、最終的には2つどころか4つもの道筋に分岐する。とは言え、時間は基本的に過去から未来に向かって一直線に進むし、ジュリアの格好もパターンごとに区別されているので、よく見ていれば今がどのルートの話なのかを見失いはしないだろう。ただし、このルートなら幸福で、あのルートなら不幸…とは一概に言えない作りになっている。

何かを手にすれば、何かを失ってしまう。ピアニストの道に進むなら家族と過ごせる時間は少なくなるし、ある男性と結ばれれば他の男性との未来はなくなる。逆に言えば、どのルートにおいてもそのルートでしか得られない何かを得ている。禍福はあざなえる縄の如し。白鍵と黒鍵が隣合わせであるように、幸福の後には不幸が、不幸の後には幸福が来るものだ。多くの美しいメロディには黒鍵が、幸せな人生には必ず悲しみが含まれている。本作はジュリアの様々な人生をシームレスに繋げており、選択とタイミング次第で未来はいくらでも変わりうることが非常に分かりやすく表現されている。

人生は他人との競争ではない。終着駅までの距離は人それぞれで違い、最短距離でそこに向かってもしょうがない。右往左往したり、山あり谷ありの道のりを歩むことで充実した旅になる。音波のように曲がりくねった軌跡は、いつか美しい音となって響き渡るだろう。世に偶然はなく、全ては必然だとする考え方がある。それが正しければ、人間は決められたレールの上を走るだけの存在に過ぎない。しかし、積み重なった偶然と選択をいつか振り返った時、それが運命的なものに感じられたなら、素敵な人生だったと言えるのだろう。

【ストーリー】
2052年パリ。80歳の誕生日を迎えたジュリアはこれまでの充実した人生に満足しつつも、過去を振り返り自分が過ごしていたかもしれない別の人生に想いを馳せていた。ピアニストを目指していた17歳の秋。ベルリンの壁崩壊を知り友人たちとベルリンへ向かった日もしバスに乗り遅れなかったら?本屋で彼に出会ってなかったら?シューマン・コンクールの結果が違ったら?私が運転していたら?ジュリアが頭に描いたのは、そんな何気ない瞬間から枝分かれしていった4つの人生。そのどれもが決して楽ではないけれど、愛しい人たちとのかけがえのない日々で満たされていて眩しい。果たして、ジュリアが選び取った幸せな“今”につながるたった⼀つの人生とは?

監督︓オリバー・トレイナー『ピアノ調律師』
出演︓ルー・ドゥ・ラージュ、ラファエル・ペルソナ、イザベル・カレ、グレゴリー・ガドゥボワ
2022|フランス|フランス語|120 分|原題︓Le tourbillon de la vie|英題︓JULIA(s)|PG12|字幕翻訳︓横井和子|配給︓クロックワークス
©WY PRODUCTIONS–MARS FILMS–SND-FRANCE 2 CINÉMA
公式SNS:@klockworxInfo #ジュリアs
公式HP:klockworx.com/movies/13045/

5月5日(金・祝)よりシネマート新宿ほか全国公開

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