MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

M・ナイト・シャマラン最新作『ノック 終末の訪問者』そのノックは終末音か福音か。あなたは愛する家族を失っても世界を愛せるか。

◆今週公開の注目作

『ノック 終末の訪問者』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

キャビン(山小屋)はホラー映画において、『ハロウィン』のマイケル・マイヤーズや『エルム街の悪夢』のフレディ・クルーガーなどと並ぶ、一種のホラーアイコンと言えるだろう。そこにいると必ず悪夢のような出来事に巻き込まれるからだ。『死霊のはらわた』では凶悪な霊に、『キャビン・フィーバー』では人喰いバクテリアに襲われてしまう。本作『ノック 終末の訪問者』のストーリーもキャビンで展開するが、全ての山小屋ホラーの中でもトップクラスに壮大だ。

アンドリューとエリックのゲイカップルと7歳の娘ウェンの3人は、キャビンで休暇を楽しもうとしていた。しかしそこに武装した4人組が現れ、扉を7回ノックする。家族は招かれざる客を警戒するが、結局強引に侵入され縛り上げられる。殺されるのかと思ったら、リーダーらしき巨漢レナードは、天啓を受け世界滅亡(アポカリプス)を防ぐためにここに来ており、家族のひとりを選んで犠牲にしなければ世界が滅びると予想だにしないことを告げるのだ。本編が始まってすぐ映るユニバーサル・ピクチャーズの地球のロゴが象徴的である。

世界の終末は選択のチャンスを棒に振る度に徐々に迫って来るという。狭いキャビンでの選択が広い世界の命運を左右する荒唐無稽な設定が何ともシャマランらしいが、カメラはほとんどキャビンから動かない。レナードの話が本当なのか、ただのカルト集団なのかはアンドリューらにも観客にも分からない。どちらにしても、犠牲者は訪問者たちでなく、あくまで家族が自発的に選ばなければならないのだ。レナードを演じる元プロレスラーのデイヴ・バウティスタがいつもの脳筋キャラを封印し落ち着いた演技をしているため、ただの暴漢に襲われるスリラーとはまた異なった不気味さが漂っている(それはそれとして筋肉はきちんと活躍する)。

本作が提起するのは一種のトロッコ問題と言えるだろう。ただし、ひとりを犠牲にして助けられるのは5人ではなく約80億人だ。もしも各人の命が等価ならば、迷わずひとりを犠牲にするべきだろう。それとも、家族の命には他の人間の命より80億倍価値があるのか? トロッコ問題は、タイムトラベル的な要素を入れれば、選択がわずかに容易になるように思える。つまり、何もしなければ大勢が死ぬ未来を見た後に事故前にタイムトラベルし、ひとりを犠牲にするかどうかを再度選べるとしたら、「定めだから結果は変えない」と「チャンスを得たから結果を変える」のどちらを選ぶとしても最初よりは選びやすくなるのではないか? レナードが見たビジョンが真実ならば、彼らは“チャンス”を活かしにやって来たことになる。まあ、これがレナードの家族の場合なら話は違ってくるのかもしれないが…。

本作はアポカリプス、つまり新約聖書のヨハネの黙示録がモチーフとなっている。黙示録の中では、キリストが7つの封印を解くごとに、7人の天使に与えられたラッパが吹かれるごとに、神の怒りが盛られた7つの鉢が傾けられるごとに大災厄がやって来る(イングマール・ベルイマン監督の『第七の封印』もここからタイトルが付けられた)。その後、神側(善)と神に背く者たち(悪)の最終戦争(アルマゲドン)が起こり、勝利した神の信者たちだけが最後の審判によって救われる。本作でもノックの数やウェンの年齢、主要登場人物の人数などに7が隠れているが、果たして待つのは同じような未来か。

ちなみに、アメリカの原子力科学者会報が毎年発表する、世界がどれだけ滅亡に近づいているかを表す世界終末時計は今年、去年から10秒進んだ午前0時(滅亡)の1分30秒前となった。これまでで最も滅亡に近い時間だ。そして、ネットでは10年ほど前から、アポカリプティック・サウンドと呼ばれるラッパのような謎の轟音の動画が世界各地で投稿され、オカルトファンの間で話題になっている。あなたの家のドアが“真夜中”にノックされる日も近いかもしれない。もしくは、ノックするのはあなたかも…。

【ストーリー】
人里離れた山小屋で、休暇を過ごしている3人の家族の前に突如現れた、謎の4人組。彼らは家族を拘束し、こう告げた。「私たちは、“終末”を防ぎに来た。君たちの“選択”に懸かっている」「家族3人のうち、犠牲になる1人を選べ」「しくじれば…世界は滅びる」。果たして、4人の訪問者は何者なのか? なぜ、世界は終末を迎えることになるのか? そして、正気とは思えない究極の“選択”の結末とは?

【キャスト】
デイヴ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、ニキ・アムカ=バード、ルパート・グリントほか

【スタッフ】
監督:M.ナイト・シャマラン 
脚本:M.ナイト・シャマラン、スティーヴ・デスモンド、マイケル・シャーマン
原案:ポール・トレンブレイ著「 The Cabin at the End of the World」
製作:M.ナイト・シャマラン、マーク・ビエンストック、アシュウィン・ラジャン
製作総指揮:スティーヴン・シュナイダー、クリストス・V・コンスタンタコプーロス、アシュリー・フォックス

配給:東宝東和
© 2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
公式サイト:https://knock-movie.jp/

2023年4月7日(金)より全国ロードショー

バックナンバー