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『逆転のトライアングル』ヒエラルキーはアナーキーへ。そして世界を改善するためのキーとなるものは?史上最もお下劣なパルム・ドール受賞作!

◆今週公開の注目作

『逆転のトライアングル』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

世界最高の映画賞と言えば、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールだ。この賞の最多受賞記録は2回で、それを成し遂げた監督は9組。『地獄の黙示録』のフランシス・フォード・コッポラや、日本人だと『楢山節考』の今村昌平などだ。昨年の映画祭でお披露目された本作『逆転のトライアングル』のリューベン・オストルンドは、その中で最も新しい記録保持者となった。2017年に発表された前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』に続く、2作連続での受賞だ。米国アカデミー賞でも作品賞、監督賞、脚本賞の3部門にノミネートされており、今最も注目度の高い作品である。

最近のパルム・ドール受賞作のテーマには、ある種の傾向が見て取れる。2014年『雪の轍』、2015年『ディーパンの闘い』、2016年『わたしは、ダニエル・ブレイク』、2017年『ザ・スクエア』、2018年『万引き家族』、2019年『パラサイト 半地下の家族』、そして本作に通ずるもの。それは、(特に貧富の)格差だ。それに加え、本作には2021年に衝撃の受賞を果たした『TITANE/チタン』が扱っていたジェンダーのテーマも含まれている。一番の見所はやはり、予告編にもあるクルーズ船上のシーンだろう。モデルのインフルエンサー、武器商人などの大富豪たちが一同に会し高級料理を楽しむディナーパーティのはずが、嵐のせいで地獄絵図となる。船酔いどころの話ではなく、上からも下からも逆流騒ぎ(表現にモザイクをかけています)。『バビロン』とどちらが上(下?)だろう?

船が難破して無人島に流れ着くと、ヒエラルキーは一気に反転する。そこで一番偉いのは金を持つ側ではない。貧しくともサバイバルスキルのある側だ。セレブを健気にもてなしていた船のスタッフたち。チャールズ・ダーウィンが言うように、生き残れるのは最も賢い者ではなく、最も強い者でもなく、環境の変化に最も上手く適応できる者なのだ。しかし、この逆転にはカタルシスと同時に、虚しさも感じてしまう。下位だった者が上位になって、上位だった者が下位になって…結局、中身が入れ替わるだけで三角形の構造自体は変わらない。このピラミッド型の、多数の下位が少数の上位を支える三角形こそが“黄金比”なのだろうか? どんなに変化が起こっても、砂時計のように必ずその形に落ち着いてしまうのだろうか? 単に時間の問題なだけで。

オストルンドによれば、原題の「トライアングル・オブ・サッドネス(悲しみの三角形)」とは美容業界の用語で眉間のしわを指すという。悲しんだり、不快な表情になると刻まれるものだ。そのしわは、たった15分のボトックス注射によってできにくくなる。しかし劇中の、現実社会のしわ寄せに対して何度も顔をしかめるには、15分は十分すぎる時間だ。クルーズ船のみならず、宇宙船地球号の行き先は? そして、スクエア(四角)、トライアングルと来たオストルンドの次回作は? 角が取れて丸くなるか? いや、それはないだろう。本作がこれだけ意地悪なのだから。これがセレブの集まるカンヌで最高賞に輝くのも最高に皮肉が効いている。もしかしたら、セレブたちも自分たちの裕福さに罪悪感を感じているのかもしれない。…10年近くずっと。

【ストーリー】
モデル・人気インフルエンサーのヤヤと、男性モデルカールのカップルは、招待を受け豪華客船クルーズの旅に。リッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな望みでも叶える客室乗務員が笑顔を振りまくゴージャスな世界。しかしある夜、船が難破。そのまま海賊に襲われ、彼らは無人島に流れ着く。食べ物も水もSNSもない極限状態で、ヒエラルキーの頂点に立ったのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃婦だった――。

【キャスト】
ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソン 他

【スタッフ】
監督・脚本:リューベン・オストルンド(『フレンチアルプスで起きたこと』、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』)

配給:ギャガ
コピーライト:Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
公式サイト:https://gaga.ne.jp/triangle/

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