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『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』女性と映画を支配してきた男を、女性と映画が断罪する。これがフェイクにはない“真実”の力だ!

◆今週公開の注目作

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

『イングリッシュ・ペイシェント』、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』、『恋におちたシェイクスピア』、『世界にひとつのプレイブック』…。これらの作品の共通点は何か。「広く知られる名作」? そうとも言える。いずれも、アカデミー賞の何らかの部門で受賞した作品ばかり。だがここで言いたいのは、その裏にはひとりの男がいたことだ。映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン。彼は映画製作会社のミラマックスとワインスタイン・カンパニーを立ち上げ、上記のものだけでなく、例えば『パルプ・フィクション』を始めとしたクエンティン・タランティーノ監督の作品など、非常に多くの映画に製作ないしは製作総指揮という形で関わっている。…いや、関わっていた。

近年、自分が受けたセクハラや性暴力を告白し、同じような立場の人たちと体験を共有・連帯するための#MeToo運動が活発化している。正確に言えば、MeToo運動自体は今のようにSNSが普及していなかった2007年に活動家タラナ・バークによって始められていたのだが、それから10年後の2017年にSNSでハッシュタグをつけて発信することで爆発的に広がったのだ。そのきっかけとなったのがハーヴェイ・ワインスタインの事件であり、本作の主人公たちであるニューヨーク・タイムズの記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターが掲載した告発記事だ。

ワインスタインは大物プロデューサーという立場を利用し、多くの女優や女性従業員に対し性暴力を働いてきた。本作の邦題には「その名を暴け」とあるが彼の所業を知る業界人は少なくなく、20年以上前にはすでに被害を訴える者が出ていた。本作に本人役で出演しているアシュレイ・ジャッドもそのひとりだ。しかし、ワインスタインは口止め料で法的に、またキャリアを潰すなどと脅して女性たちの口を塞ぎ、事態が公にならないように画策していた。必要だったのは、「その名を暴く」のではなく「その名を曝(さら)す」ことだったのだ。トゥーイーとカンターは、ただでさえ他人に打ち明けづらい体験をした女性たちの声が奪われている実情に憤り調査を始めるが、自分たちもワインスタイン側からの嫌がらせ・脅迫を受けていく。

この調査がもたらした輝かしい結果を我々はすでに知っているわけだが、本作を見ればそこに至るまでの道筋はやはり大変困難なものだったと分かる。ワインスタインは画面にほとんど出てこないのに、トゥーイーらが1歩進んでは2歩下がる度に、彼女らがワインスタインの大きな影に包まれているように感じるのだ。だからこそ、報道によって白日の下に曝すことの力強さも実感できる。本作は、被害を受けたグウィネス・パルトロウと過去交際し、ワインスタインに正面から立ち向かったブラッド・ピットが立ち上げたプランBエンターテインメント製作の映画だ。女性差別を描いた『未来を花束にして』や『プロミシング・ヤング・ウーマン』で主演を努めたキャリー・マリガンがトゥーイー役なのも力強いキャスティングで、女性と映画を支配してきた男がそれらに倒されるというのが何とも皮肉である。

「She said」は「彼女は言った」という意味だが、これを使った『That’s what she said(それは彼女が言ったことだよ)』というジョークがある。多義的な発言にわざと性的なニュアンスを持たせ、男性側が女性の声を奪い“代弁”するものだ。性暴力の加害者が自身を正当化するときに使いがちな、「女性側が誘った」という言い訳に近い部分がある。そのようなフェイクではなく、数多くの“彼女”の真実の発言にはパワーがあるのだ。泣き声の後に再び言葉を取り戻した、二度目の誕生を経た“彼女”の発言には。

【ストーリー】
取材を進める中で、ワインスタインは過去に何度も記事をもみ消してきたことが判明する。さらに、被害にあった女性たちは示談に応じており、証言すれば訴えられるため、声をあげられないままでいた。問題の本質は業界の隠蔽構造だと知った記者たちは、調査を妨害されながらも信念を曲げず、証言を決意した勇気ある女性たちと共に突き進む。そして、遂に数十年にわたる沈黙が破られ、真実が明らかになっていくー。

【キャスト】
キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン、アンドレ・ブラウアー、ジェニファー・イーリー、サマンサ・モートン 他

【スタッフ】
監督:マリア・シュラーダー
製作総指揮:ブラッド・ピット、リラ・ヤコブ、ミーガン・エリソン、スー・ネイグル
原作:『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』
   ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー/著(新潮文庫刊)古屋美登里 / 訳
配給:東宝東和
© Universal Studios. All Rights Reserved

公式HP:https://shesaid-sononawoabake.jp/

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