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『警官の血』悪法も法なら、不正もまた正か。観客をも追い詰める、日本原作・韓国発のクライム・サスペンス。

◆今週公開の注目作

『警官の血』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

サスペンス映画ばかり見ていると、どうしても警察という組織への不信感が募ってしまう。多くの場合、内部は腐敗し、外面は清廉潔白に見える警官も汚いやり方で私腹を肥やしている。善い警官など、「犬のおまわりさん」くらいしかいないのだろうか。まあ、腐った警官とて大抵はより黒い上層部の犬であったりするし、善良な「犬のおまわりさん」は泣いている迷子の子猫ちゃんの前で自分もわんわん鳴くことしかできない非力な存在なのだが。さあ、筆者のそんな偏見を助長するかのように、韓国から新たなクライム・サスペンス作品が現れた。日本の作家、佐々木譲の同名小説を原作とする本作、『警官の血』である。

若き新人刑事のミンジェを演じるのは、『パラサイト 半地下の家族』で裕福な家族に取り入っていく貧乏家族の長男役を務めたチェ・ウシク。ミンジェが幼い頃、警官だった父親はある事件の犯人を追い詰めたところで殉職してしまった。しかし、父親の死は評価されるどころか闇に葬られてしまう。清く正しい父親を尊敬していたミンジェもまた成長して警官となり、ある任務を与えられる。最も優秀な警官でありながら、同胞殺しの疑いが持たれているガンユンの調査だ。ミンジェはすぐにガンユンに気に入られ、真っ当とは言えない手段での捜査を目にするが、ガンユンはあくまで「悪人を捕まえる」という信念を全うするため動いているように見える。ミンジェの目的は不正の証拠の確保だったはずが、ガンユンとともにいるうち、あろうことか“父性”を感じてしまうのだ。

幼き日に憧れた「正しさ」が何なのか分からなくなり途方に暮れるミンジェに、新たな“父”ガンユンは「グレーであること」の必要性を説く。ミンジェの世界は色を失い、全てが灰色に見え始める。今その足が白と黒、どちらの地を踏んでいるかも分からない。目的さえ正しければ、手段が間違っていても正当化されるのか。警官の血が流れている自分も、必要ならば他の警官の血を流さなければならないのか。死んだ父親もまた、灰色に染まっていたのだろうか。「憧」という字は「童の心」と書く。そんな“幼稚”な思いを捨てなければ、“大人”にはなれないのだろうか。手が汚れるのを厭うては、汚れた物は掴めない。「掴みたい」…、それだけの素朴な願いは毒にも薬にもならない。であれば、どうせなら毒を選び、そのまま皿まで食らう覚悟をしなければならないのだ。「皿」も「血」も、たかが点ひとつの違いしかないだろう。

…と、本作はミンジェだけでなく観客をも揺さぶってくる。居心地の悪さを感じているうちは、まだ大丈夫ということだろう。「そのやり方が正しいのか、正しくないのか」と迷う、そのグレーさをこそ我々はキープしておきたいものだ。日本の警官が本作を見た時にも、怒りを覚えるならまだ希望はあるだろう。だがもしも、ラストのミンジェの行動に少しでもカタルシスを覚えてしまったならば、手遅れかもしれない。筆者はすでに…。

【ストーリー】
描かれるのは、警察組織の闇。 一人の警官の死をきっかけに、事件の黒幕として疑いがかかるエース刑事の身辺調査に乗り出す新人刑事。 潜入捜査をするなかで、警察内部の秘密組織と隠蔽された不正行為、そして殉職した警官の父の真相に迫っていく。 彼を待ち受けるのは、予想を裏切る陰謀。辿り着いた先にある“真の警官”の姿とはー。

【キャスト】
チョ・ジヌン、チェ・ウシク、パク・ヒスン、クォン・ユル、パク・ミョンフン 他

【スタッフ】
原作:佐々木譲『警官の血』(新潮文庫刊)
監督:イ・ギュマン  
2022年/韓国/119分/シネマスコープ/5.1ch/原題:경관의 피/英題:The Policeman’s Lineage/字幕翻訳:福留 友子/配給:クロックワークス/PG-12
公式HP:klockworx-asia.com/policeman 
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10月28日(金)新宿バルト9ほか全国公開

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