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『L.A.コールドケース』米ヒップホップ界のタブーに踏み込むクライムサスペンス。ジョニー・デップはL.A.の闇と自らの人生を照らせるか?

◆今週公開の注目作

『L.A.コールドケース』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

最も“ノトーリアス(悪名高い)”な俳優と言えば誰だろうか。少し前までなら、ジョニー・デップの名が挙がったかもしれない。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのジャック・スパロウ役や、盟友ティム・バートン監督とタッグを組んだ『チャーリーとチョコレート工場』などで2000年代には人気の絶頂にあったものの、その後低迷。2016年には元妻アンバー・ハードへのDV疑惑から泥沼の離婚劇となり、そのせいで『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフ『ファンタスティック・ビースト』シリーズを降板する羽目になった。スパロウ役でのカムバックの可能性もないと言われているし…。

だが悪名高さについては、現在では状況は変わったかもしれない。今年の4月から始まったハードへのDV疑惑裁判はデップの勝訴に終わった。俳優としてのキャリアの点では――、デップはスパロウ役やバートン作品でよく見かけるエキセントリックな役で知られているが、2015年の実録クライムドラマ『ブラック・スキャンダル』では演技派であることを観客に再認識させた。2020年には『MINAMATA ―ミナマタ―』でやはり実在の人物を演じ、その演技が絶賛された。そして、再び実際の事件を扱った本作『L.A.コールドケース』でも実在の人物を演じている(2018年製作ではあるが)。最初のパートナーの名が(バネッサ・)パラディ(=パラダイス)のデップだけに、舞台となるのは天使の街ロサンゼルス。

主人公である元刑事のラッセル・プールが追いかけるのは、90年代にカリスマ的な若き2人のラッパーが殺された事件だ。2パックとノトーリアス・B.I.G(ビギー)は友人だったが、訪れたNYのレコーディングスタジオで何者かからの銃弾を浴びた2パックは、ビギーの仲間に囲まれた状況であったことから、ビギーが所属する東海岸のバッド・ボーイ・レコードの仕業と思い込む。疑われたビギーは楽曲「Who Shot Ya?(誰がお前を撃った?)」をリリースし、これをビーフ(ヒップホップで行われるディスり、相手への口撃。他店のハンバーガーに向けて「牛肉はどこ?」と揶揄したファストフード店のCMに由来)と捉えた2パックは黒い噂の絶えないシュグ・ナイト率いる西海岸のデス・ロウ・レコードと契約、その後もビギーらへのビーフを続けた。

米ヒップホップ界を東西に二分したこの抗争は、1996年9月に当時25歳の2パックが、1997年3月には当時24歳だったビギーの方も射殺されてようやく沈静に向かっていく。しかし犯人は現在でも不明のまま、原作のタイトル『LAビリンス』の通り、迷宮入りした…。プールがヒップホップ好きであれば知らぬ者はないこの有名な事件の真実に迫る中で関与してくるのは、ロサンゼルスを支配する2大ストリートギャング、ブラッズとクリップス(2パックのスタイルも「ギャングスタ・ラップ」と呼ばれる)。そして、この街ではギャングと警察の間に垣根などないことが明らかとなっていく…。

ご存じ、古代ギリシャの都市は「ポリス(polis)」と呼ばれる。警察も「ポリス(police)」だ。これは単なる偶然ではない。policeの語源こそがpolisであり、プールが戦っているのはロサンゼルスという都市そのものなのだ(原題も『City of Lies(嘘の街)』)。彼が事件に取り憑かれていく様は、同じく実際の未解決事件を扱った『ゾディアック』を思い出させる。つまり、未解決事件は当事者だけでなく、それを調査する人間の人生も狂わせてしまうのだ。プールは、半人半“牛”の獣ミノタウロスが幽閉されたラビュリントスから脱出するごとく、解決の“糸口”を見つけることはできるのか、それとも食われてしまうのか。裁判で真実を追求し続けたデップにこの役はピッタリだが、果たして…。

【ストーリー】
ロサンゼルス市警の元刑事ラッセル・プール(ジョニー・デップ)は、彼にとって最大の事件、90年代の伝説的なヒップホップラッパー、2パックとノトーリアス・B.I.G.の殺人事件を解決出来ずにいた。事件発生から18年経ってもなお犯人は特定されず、謎に満ちていた。一方、独自に事件を追うジャーナリスト、ジャック・ジャクソン(フォレスト・ウィテカー)は、なぜラッセルがこの事件に執着しているのか、そこから捜査が進まない原因を突き止めようとする。さらに、プールはノトーリアスの事件に警察官たちの関与を疑い捜査を深めていく。そして、プールとジャクソンは複雑に絡む事件の真相に迫るが……

出演:ジョニー・デップ フォレスト・ウィテカー トビー・ハス デイトン・キャリー

監督:ブラッド・ファーマン(『潜入者』『リンカーン弁護士』)
原作:ランドール・サリヴァン「LAbyrinth」
脚本:クリスチャン・コントレラス

2018年│アメリカ・イギリス│英語・スペイン語│112分│カラー│スコープ│5.1ch│G│原題:CITY OF LIES│字幕翻訳:種市譲二
© 2018 Good Films Enterprises, LLC. 

提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
公式HP:la-coldcase.jp

 

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