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『人と仕事』 人、そして仕事のエッセンス(本質)に迫る、この時代ならではのドキュメンタリー。

◆公開中の注目作 
『人と仕事』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

本作は、世界がコロナ禍に見舞われなければ誕生しなかった作品だ。元々の企画では、実在の保育士てぃ氏をモデルにした劇映画『保育士T』が作られる予定だった。しかし、最初の緊急事態宣言が発令されたことで、あえなく頓挫。その後、森ガキ侑大監督はエグゼクティブプロデューサーの河村光庸氏から代わりにドキュメンタリーを撮ることを勧められ、そちらに舵を切ることにしたのだ。本作には『保育士T』に出演するはずだった有村架純と志尊淳が参加し、コロナ禍の影響を直接受けている人々にインタビューしていく形式になっている。

コロナ禍はこれまでの「当たり前」を当たり前ではなくした。人々は、深く考えてこなかったことに向き合わざるを得なくなったのだ。今ではよく聞くようになった、「社会の維持に必要不可欠な労働者」を意味する「エッセンシャルワーカー」という言葉が有名になったのもコロナ禍の影響だが、もちろんその職自体はこれまでもずっとそこにあった。その存在意義と、それに釣り合わない対価のアンバランスさを、改めて人々は思い知らされた。本作にはエッセンシャルワーカーではない労働者も登場する。彼らの中には、感染拡大を助長するとして槍玉に挙げられた職種の者も。彼らに言わせれば、コロナ禍以前から偏見を向けられていたが、今回それがよりはっきりした形になったとのこと。エッセンシャルワークとは呼ばれなくとも、すでにそれを必要としている人がいる時点で、なくなっても構わない仕事でないのは明らかだ。インタビュイーはそれぞれの仕事について生々しく、切々と語る。映画という間接的な形だからこそ、普段出会うことのない人の、普段聞くことのできない思いさえも受け取ることができる。直接相手に触れて温め合わなくとも、彼らの言葉で胸がじんわり温かくなってくる。有村と志尊はもちろん、プロのインタビュアーというわけではない。だが、彼ら役者がインタビュアーとなったのには奇妙な必然性がある。「役者は様々な職種の人間を演じるもので、一層相手に寄り添いながら話を聞くことができるから」? 確かにそれは一理ある。実際、彼ら自身もそう考えながらインタビューを行っていくが…それだけではない。

現在では誰も彼もがマスクを着けている。しかし、それは今に限った話ではない。有史以来、我々はマスク(仮面)を被り続けてきたのだ。古代ギリシャ劇において役者が被る仮面は、特に「ペルソナ」と呼ばれる。英語の「person(人)」や「personality(人格)」の語源だ。16~17世紀頃のヨーロッパでも仮面劇(マスク、masque)が流行した。シェイクスピアは(仮面劇ではないが)喜劇『お気に召すまま』の中に、「この世は舞台、人はみな役者だ」という名言を残している。誰もが、その時々で仮面を付け替えるように、課せられた様々な役割を全うして生きようとする。役者とは、そんな人間のあり方を分かりやすく体現した存在なのだ。有村と志尊はインタビューを続けていく中で、このコロナ禍で役者として一体何ができるのかと悩み始める。しかし、筆者に言わせれば答えは簡単だ。人はパンのみにて生くるにあらず。その一言に尽きる。…インタビューを終えた2人は、再びそれぞれの現場に戻っていく。当然ではあるが、観終わってこれ以上元気の出る事実もないだろう。誰にとっても、演じることは生きることなのだから。

【キャスト】
有村架純 志尊 淳

【スタッフ】
監督:森ガキ侑大
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
製作:堀内大示 森田圭
プロデューサー:長井龍 小松原茂幸 花田聖
音楽:岩代太郎
編集:鈴尾啓太
編集助手:藤井遼介
撮影:森ガキ侑大 Junpei Suzuki 西山勲 佐野円香 森 英人/小松原茂幸 山崎裕
録音:森英司 黒木禎二
歌:吉田美奈子& W.I.
作詞:土城温美
制作:スターサンズ
配給:スターサンズ/KADOKAWA
製作:『人と仕事』製作委員会
(C)2021『人と仕事』製作委員会

公式サイト:https://hitotoshigoto.com/

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