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『PIG/ピッグ』決して大作じゃないけれど、ニコケイの人生を彩る香り高い一品。

◆今週公開の注目作

『PIG/ピッグ』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

スターに波乱万丈な人生はつきものと言えど、この人物ほどぶっ飛んでいるのも珍しい。ミスター波乱万丈、ニコラス・ケイジだ。本名はニコラス・キム・コッポラ、あの『ゴッドファーザー』の監督フランシス・フォード・コッポラの甥として生まれた。1995年の『リービング・ラスベガス』でアカデミー主演男優賞に輝くものの、その後は一時期“最低な映画”に贈られるゴールデンラズベリー賞の常連に。極度のアメコミマニアでもあり、芸名の由来のひとつはマーベルのヒーロー、ルーク・ケイジ。息子に付けた名前は「カル=エル」、スーパーマンの本名だ。浪費家としても知られ、1938年のスーパーマン初登場時の雑誌を15万ドルで入手。しかし、せっかく手に入れたそれは後に、借金返済のためオークションに出された(無事216万ドルで落札)。

そんな規格外れのニコケイは、ここ十数年B級作品への出演を続けていた。“いつものニコケイ映画”とも形容できるようなテンションの高い作品たちの中に、たまに『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のような怪作が混じるのが面白いものの、落ち目だったことは確かだ。だが本作は、「豚」というトンデモなタイトルに反してかなりシリアスで、彼が演技派だったことを思い出させる見事なカムバック作品になっている。最初にラジー賞にノミネートされたホラー(?)映画『ウィッカーマン』で、顔中蜂にたかられながら「蜂はやめろ! 蜂が目の中に! 目がァ! アアアアァ!!」と絶叫して観客を爆笑の渦に巻き込んだ、あの時の面影はもうない。

トリュフハンターのロブは世俗から離れ、トリュフ探しの相棒の豚と暮らしている。その豚が何者かに誘拐されてしまい、取り返そうとするというのが物語の大筋だ。元シェフのロブはオレゴン州にあるグルメの街ポートランドで捜索を始めることになるが、そこからなぜか『ファイト・クラブ』のような格闘技場が出てくるなど、想像を超えた展開に(『ファイト・クラブ』原作者のチャック・パラニュークはポートランドに住んでいる)。それでも本作は、例えば主人公が犬を殺されて復讐する『ジョン・ウィック』のようなリベンジスリラーにはならない。豚がトリュフを掘り起こすように、彼の秘められた過去がゆっくりと明らかにされていく。やはりドラマと呼ぶにふさわしい作品だ。

トリュフ狩りに用いられるのは、メスの豚らしい。トリュフの香りはオスの豚が発するフェロモンと似ているからだそうだ。これまで四度もの結婚に失敗してきたニコケイは、再び“トリュフ”を見つけた。日本人女性と五度目の結婚をし、新たに子どもを授かったばかりだ。また、彼は数年間のうちにB級映画に出演しまくったおかげで、多額の借金を完済できたという。そして、これまで九度もラジー賞の最低主演男優賞にノミネートされた彼は、本作でラジー賞の名誉挽回賞にノミネートされた。ニコケイキャリアの新章の始まりを見逃さないようにしよう。

【ストーリー】
オレゴンの山奥で、孤独な男ロブはトリュフ狩りをする忠実なブタと住んでいた。ロブはトリュフバイヤーのアミールと希少で高価なトリュフを売買し、わずかな物資で生活していたが、ある日大切なブタが何者かによって強奪されてしまう。ロブはブタを奪還するためにポートランドの街まで下り、アミールと手がかりを捜す。ロブはブタの行方を辿る中、故郷でもあるポートランドで自身の壮絶な過去と向き合うことになる。

【キャスト】
ニコラス・ケイジ、アレックス・ウルフ、アダム・アーキン、カサンドラ・バイオレット 他

【スタッフ】
監督:マイケル・サルノスキ

公式サイト:https://pig-movie.jp/
2020 Copyright © AI Film Entertainment, LLC
新宿シネマカリテ他にて、10/7(金)より全国ロードショー

 

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