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【今週公開の注目作】『愛はステロイド』電撃のように全身に走る。それは血筋よりも濃い、運命の赤い糸。

◆今週公開の注目作

『愛はステロイド』
8月29日(金)全国ロードショー

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

「マイノリティ」とはいえ、クィア映画は最近はもう珍しくも何ともなくなった。しかし、A24製作の本作『愛はステロイド』は、他の作品とは一味も二味も違う。女性同士のロマンスにクライムスリラーやボディホラーの要素がごちゃ混ぜにされ、さらにそこに主演ふたりの化学反応が加わったソレを一気に飲み干してしまえば、とんでもなくドラッギーな体験となるのは間違いない。

冒頭、クリステン・スチュワート演じるジムで働くルー(ルイーズ)と、そこらの男では太刀打ちできなそうな仕上がった肉体を持つジャッキーが出会い、ふたりはすぐに惹かれ合い、交わり合う。そうして、物語はもう止まれないモンスタートラックと化す。人殺しを厭わないルーの父親や、姉ベスに日常的にDVを働く夫JJなど、ルーの周りには暴力が絶えない。ボディビルの大会に出ようとしているジャッキーに対し、ルーは好意でステロイドをあげてしまうのだが、そのせいでモンスタートラックのエンジンは唸りを上げ、さらに速度を上げていく。壁にぶつかればひとたまりもないだろうが、もうどうすることもできない。

 

生々しい演技を披露するスチュワートが素晴らしいのはもちろん、ハゲなのにロン毛という凶悪なビジュアルのエド・ハリス、暴力に翻弄される弱々しいジェナ・マローンと彼女を嬲る最低なデイヴ・フランコと、本作はとにかく役者が良い(皮肉にも、フランコは日本公開が待たれる高評価ホラー『Together(原題)』では、実際の妻でもあるアリソン・ブリーと夫婦で仲良く“文字通り”ひとつになる)。

だが、やはりこのジャッキーを演じたケイティ・オブライアンが本作で最も目を引く。最近の出演作だと『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が最も分かりやすいだろう。必ず返せと言ってイーサン・ハントに潜水服を貸してくれたのが彼女だ(そしてもちろん返せなかった)。オブライアンの筋肉はそれ自体がすでにスペクタクルで、それ自体が別の生き物のように躍動する。本作では、“ジャック”の方が巨人なのだ。ルーとジャッキーとのラブシーンでは、筋肉はジャッキーが持たないはずのナニカのように怒張し、非常にエロティックでもある。しかし、はじめはルーを守る屈強な盾であったはずの肉体は、「攻撃は最大の防御」とでも言うようにステロイドの打ちすぎで破壊的な矛へと変貌してしまう。

本作で描かれるのは愛(し合うべき関係)と、それと表裏一体の暴力性だ。『Love Lies Bleeding(愛は血を流して横たわる)』の原題通り、親子も、姉妹も、夫婦も、恋人も、お互いに本当は愛し合っているのかもしれないがそれ以上に傷つけ合う。タバコもステロイドも性行為も愛も、ここでは人を落ち着かせ苛立たせ中毒にさせて幻を見せるドラッグとして同列に語られる。エロスとバイオレンスが強烈な作品ながらシリアス一辺倒ではなく、現実とは思えない、シュールでともすればコミカルにも見えるシーンさえ登場する。ローズ・グラス監督の前作となる神経質な宗教ホラー『セイント・モード/狂信』とは全く違った作風に脱帽だ。

愛は人を生かし、人を殺す。全身を駆け巡る“赤い糸”に絡め取られ、愛のマリオネットと成り果てたジャッキーはルーと幸せに生きていけるのか? どんどん追い詰められていくふたりに、一抹どころではないほどの不安がよぎる。だが、本作と同じく「love-lies-bleeding」と呼ばれる、血が滴るような見た目のアマランサスの花言葉のひとつは「終わりのない愛」。際限なく膨れ上がるこのモンスタートラックの行方はまだ誰にも分からない。本作のルイーズの相棒の名は「テルマ」ではないのだから。

【ストーリー】
1989年。トレーニングジムで働くルーは、自分の夢をかなえるためにラスベガスに向かう野心家のボディビルダー、ジャッキーに夢中になる。しかし、町で警察をも牛耳り凶悪な犯罪を繰り返す父や、夫からDVを受け続ける姉を家族に持つルーの身の上によって、ふたりの愛は暴力を引き起こし、ルーの家族の犯罪網に引きずりこまれることになる。

【キャスト】
クリステン・スチュワート、ケイティ・オブライアン、エド・ハリス、ジェナ・マローン、デイヴ・フランコ 他

【スタッフ】
監督:ローズ・グラス
脚本:ローズ・グラス、ヴェロニカ・トフィウスカ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://a24jp.com/
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