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『対外秘』国家という家は、敗者の血と肉と骨と灰が埋まる砂の上に建っている。

◆今週公開の注目作

『対外秘』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

戦争で人は死ぬ。火を見るよりも明らかである。そしてそれは、他国相手の外戦や『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のような国民同士の内戦など、軍事的な戦いに限らない。もっともっと規模は小さく見えて、国の行く末を左右し、しかも必ず定期的に勃発する“戦争”がある。“選挙戦”だ。

本作『対外秘』は、クリーンなイメージで地元住民からの信頼も厚い男ヘウンが、国会議員の一歩手前にいるところから始まる。しかし、党の後ろ盾を得てこれから夢が叶う……というところで、師であり政界を裏で牛耳るスンテの策略により梯子を外され、スンテの思い通りに動く別の傀儡に国会議員の座を奪われてしまう。ここから事態は、観客がはじめ想像していた方向とは違う展開となる。ヘウンはスンテの莫大な富を生み出すための対外秘(トップシークレット)文書を入手し、リベンジしようとするのだ。ヤクザとまで結託して! クリーン。そうだ。汚い奴らはソウジしなければ……。

政界で生き残るには、真人間のままでいてはいけないらしい。相手に弱みを握られれば失脚か、すぐに足のない幽霊に成り果てる。多くの物語において、悪魔との取引によって得られるものは富や権力。代償は魂だ。人間は命の代わりに魂を売る。そうして肉体は生きながらにして魂だけが腐り、ある種のゾンビと化す。観客は真っ白に見えたヘウンを応援しようとしていきなり出鼻をくじくパンチを食らい鼻血だらだらだが、敵味方が目まぐるしく入れ替わるリバーシの行方に興味を引っ張られ続ける。白と黒が戦っているのではない。最初から、白に限りなく近い黒と漆黒がぶつかり合っていたのだ。政界に純白は存在しない。その事実を受け入れれば、本作はカタルシスが待っているはずのスカッと勧善懲悪の物語から、泥だらけになりながら悪路を爽快に疾走するようなピカレスクロマンへと姿を変える。

平和の世なら殺人鬼でも、戦時中なら英雄になれる。味方を裏切り極秘情報を敵に売り渡すスパイは国家反逆罪で死刑となっても不思議ではないが、政界でそれをすると逆に成り上がれる可能性すらあるようだ。共感できそうでできない……ようでやっぱり少し共感してしまう主人公を演じたチョ・ジヌンは、『警官の血』でも敏腕ながら悪に染まったかに見える警官を絶妙に演じていた(『お嬢さん』ではただのド変態を見事に演じていた)。最適なキャスティングと言えるだろう。筆者が他に心奪われたのは、韓国の鈴木亮平かジョン・シナと呼びたい顔のキム・ムヨルだ。ヘウンと手を組むヤクザのボス・ピルドを演じているが、強面ながら不敵な笑みを絶やさない佇まいと、その笑みが消える際の悲哀がたまらない。政治の闇を暴く本作を見たなら、政治家へ批判的な視線を向け続けるのを忘れずにいられるだろう。……え? 「政治の闇など火を見るより明らか」? 余計にお先真っ暗じゃないか!

【ストーリー】
1992年、釜山。党の公認候補を約束されたヘウンは、国会議員選挙への出馬を決意する。ところが、陰で国をも動かす黒幕のスンテが、公認候補を自分の言いなりになる男に変える。激怒したヘウンは、スンテが富と権力を意のままにするために作成した〈極秘文書〉を手に入れ、チームを組んだギャングのピルドから選挙資金を得て無所属で出馬する。地元の人々からの絶大な人気を誇るヘウンは圧倒的有利に見えたが、スンテが戦慄の逆襲を仕掛ける。だが、この選挙は、国を揺るがす壮絶な権力闘争の始まりに過ぎなかった――。

【キャスト】
チョ・ジヌン、イ・ソンミン、キム・ムヨル、ウォン・ヒョンジュン、キム・ミンジェ、パク・セジン、キム・ユンソン、ソン・ヨウン 他

【スタッフ】
監督:イ・ウォンテ

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公式サイト:https://taigaihi.jp/

 

 

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