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『ヒットマン』それは、他人ではなく冴えない自分を消す殺し屋。

◆今週公開の注目作

『ヒットマン』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

人はみな役者である。好きでもない相手に笑顔を向け、付き合いを避けられない相手への怒りを噛み殺し、気に入られたい相手には短所を隠し通し、心にもない言葉を本音かのように口にする。通常「役者」と聞いて思い浮かべるような、映画やテレビで見かける彼ら・彼女らは演技でお金までもらっているプロの役者というだけで、誰もがアマチュアの役者なのだ。「パーソナリティ(人格)」の語源が、劇で使用する仮面を意味する「ペルソナ」であることを考えれば当然と言える。いくら裏表がない人でも、自分の親、友人、他人に対する接し方は全く同じではないだろう。

ネットで何かを検索しようとした時、入力の途中で勝手にキーワードが予測されるが、「妻 〇〇」と「夫 〇〇」では予測ワードに天と地ほどのギャップがあるというのはそれなりに有名な話だ。ちなみに今Yahoo! Japanの検索窓で試したところ、妻の方は上位に「妻 誕生日プレゼント」が来るのに対し、夫では「夫 死んでほしいです」や「夫 嫌いすぎる」が上位に来た。切ない。家の中でも作り笑顔をしているのかはさておいて、対外的には問題ないように振る舞っている仮面夫婦もきっと少なくないのだろう。本作の主人公も、世を忍ぶ仮の姿を持っている。ただし、仮面の方が実際よりもワルい顔だが。

『トップガン マーヴェリック』のハングマン役でブレイクしたグレン・パウエル演じるゲイリー・ジョンソンは、大学教授でありながら殺し屋(ヒットマン)……としておとり捜査を行っていた実在の人物だ(あくまで本作は事実を基にしたフィクション)。普段はパッとしない風貌で心理学を教えているが、役に入り込めばクールでイカしたバッドガイのロン。ハエも殺せなさそうなのに殺し屋演技は天才的で、実際に経験があるかのごとく死体処理法について語り、誰かを殺したがっている人の信用を得て依頼を受けるフリをして警察に突き出すのだ。まさに外道! ……い、いや、別に良いのか。

そしてある日、夫を殺したがっている人妻のマディソンと出会う。誰かの心臓を撃ち抜く代わりにハートを射抜かれた彼は、マディソンを説得し夫殺しを諦めさせる。殺し屋にあるまじき行動が逆にマディソンに気に入られ、急速に距離を縮めていくが、もちろんマディソンはゲイリーを殺し屋ロンと思っているわけで……という勘違いコメディとなっている。ただでさえ二面性があるややこしい演技を求められるキャラクターなのに、ゲイリーは依頼人によって殺し屋のタイプを変えるので、グレン・パウエル七変化が拝めるファンにはたまらない作品だ。

案の定、だんだんとゲイリーの予想を上回る展開となっていき、殺し屋ロンも困った事態に。さらに、ただの演技だったはずのロンの人格が抜けなくなってくるなどの役者あるあるネタも入っており、役者というものの生態を目の当たりにしているようでもある。パウエルは本作ではリチャード・リンクレイター監督とともに脚本・製作も務め、自分を最も魅力的に見せるのに成功している。ちょっと前ならライアン・ゴズリングあたりが演じていた役かもしれないが、今後はパウエルの顔を見る機会の方が増えたりして?

【ストーリー】
ニューオーリンズで2匹の猫と静かに暮らすゲイリー・ジョンソンは、大学で心理学と哲学を教える傍ら、地元警察に技術スタッフとして協力していた。ある日、おとり捜査で殺し屋役となるはずの警官が職務停止となり、ゲイリーが急遽代わりを務めることに。これをきっかけに、殺人の依頼者を捕まえるためにさまざまな姿や人格に変身する才能を発揮し、有罪判決を勝ち取るための証拠を引き出し、次々と逮捕へ導いていく。ところが、支配的な夫との生活に追い詰められた女性・マディソンが、夫の殺害を依頼してきたことで、ゲイリーはモラルに反する領域に足を踏み入れてしまう。 セクシーな殺し屋ロンに扮して彼女に接触。事情を聞くうちに、逮捕するはずの相手に対し「この金で家を出て新しい人生を手に入れろ」と見逃してしまう……!恋に落ちてしまったふたりは、やがてリスクの連鎖を引き起こしていくことに――。

【キャスト】
グレン・パウエル、アドリア・アルホナ、オースティン・アメリオ、レタ、サンジャイ・ラオ 他

【スタッフ】
監督:リチャード・リンクレイター
脚本:リチャード・リンクレイター、グレン・パウエル
製作:リチャード・リンクレイター、グレン・パウエル 他

 

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