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『PERFECT DAYS』平山に会いたくて、この先も何度だってこの映画を観るのだろう。

◆今週公開の注目作

第76回カンヌ国際映画祭〈最優秀男優賞〉受賞
ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースと日本を代表する俳優・役所広司の美しきセッション

『PERFECT DAYS』

文:つみき(大好きなのは銀杏と緑茶割り)

平山みたいに、生きていけたなら。
第76回カンヌ国際映画祭にて最優秀男優賞を受賞した役所広司が演じる、もはや演じるとも違う、『PERFECT DAYS』には役所広司ではなく、“平山”という1人の人間の生きる時間が確かに存在していた。『PERFECT DAYS』を通して平山の人生に触れた時、平山が愛した木漏れ日のように、小さいけれど確かに、私達の人生はそっと温かくなる。


平山はいつも上を見ている。まだ夜を引きずったような早朝に目を覚まし、窓から揺れる木々を見る。玄関を出て、空を見上げる、そして平山は微笑むのだ。
東京の公共トイレの清掃員の仕事をしている平山の1日はシンプルだ。いくつかの公共トイレを周り丁寧に掃除をする、仕事が終わると銭湯に行き一番風呂を浴びる、浅草駅地下にある居酒屋は平山の行きつけだ。平山の生活を形成する“ルーティーン”は、なんとなく日々を生きて、行き着いた所作ではなくて、おそらく平山が人生で選び取ってきた“お気に入り”たちなのだろう。無口な平山から時折溢れる静かな微笑みが、そんな思いを確信に変えてくれる。

「清掃員を主人公にした物語をつくる」「その主人公は役所広司は演じる」「フィクションの存在をドキュメンタリーのようにとらえる」この3つのプロセスから始まった『PERFECT DAYS』は、ヴィム・ヴェンダースと役所広司によって、平山という1人の人間が確かに命を授かり、スクリーンを飛び出して私の人生に間違いなく入り込んできた。これから私が生きていく時間の中で、ふと、平山のことを思い出す。それは木漏れ日を見た時、トイレの清掃中看板を見た時、缶のハイボールを見た時。『PERFECT DAYS』は私の人生と共存する映画になった。

『PERFECT DAYS』はとても静かで穏やかな映画だ。その静かな穏やかさもまた、豊さに満ち溢れた平山の人生を彷彿とさせる。音楽はただ1つ、平山が選び取ってきた“お気に入り”の中にカセットテープがあり、車中ではその時々に平山が選んだカセットテープがカーステレオから流れ出てゆく。そのどれもが特別に感じるのは、平山が選び取った、その時平山が聴きたいと思った音楽だからなのだろう。ラストシーンは、その選び取った平山の音楽と、平山の人生が濃縮された圧巻の表情に、ただただ涙が次々と溢れてきて、自分でもなぜ泣いているのかが分からなかった。

私はこれからの人生で何度だって平山に会いたくなって、平山の人生に触れたくなって、その度に『PERFECT DAYS』を観るだろう。そこには平山がいて、平山がそこに生きている。平山が掃除をしている渋谷区の公共トイレは何度も目にしていたけれど、一度も使用したことはなかった。そこにいけば真髄にトイレに向き合い掃除をしている平山に会える気がする。私は『PERFECT DAYS』に取り憑かれしまったのだろう。今度、マルバツゲームを書いた紙切れを握りしめて、平山に会いに行こう。今度っていつだろう?こんどはこんど、いまはいま、だ。

【ストーリー】
1

【スタッフ】
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
製作:柳井康治
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
製作:MASTER MIND 配給:ビターズ・エンド
2023/日本/カラー/DCP/5.1ch/スタンダード/124 分
c 2023 MASTER MIND Ltd.
perfectdays-movie.jp

12 月 22 日(金) より TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー!

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