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『デシベル』街中の喧騒がその爆弾を起爆させる!チクタクすり減る寿命はあと何秒?

◆今週公開の注目作

『デシベル』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

人間はうるさい。何をするにもガサゴソと音を立てる。身動きひとつしないとしても、呼吸のノイズを消すこともできない。まだそれくらいなら可愛い方だが、筆者が住んでいる場所では頻繁に上空を飛行機が飛ぶので、毎日のように恐ろしい轟音が耳をつんざく。その数十秒間は、通常の会話はとても不可能だ。音の大きさを示すデシベルで表すと、目安としては走行中の電車内が80デシベルらしいので、実際に測定してはいないが決してそれを下回りはしないだろう。もしかしたら100デシベル前後はあるかもしれない。同程度のうるささは電車が通っている最中の高架下でも味わえるようだが、とにかく人間社会には騒音が溢れている。ではもしも街中に、音に反応して起爆する爆弾が仕掛けられたら?

本作『デシベル』は、まさにそのような恐怖を扱った作品だ。映画ではよく、条件を守らなければ爆発する爆弾が登場する。走行スピードを落とすとアウトとか、爆弾を揺らすとアウトとか…。赤いコードと青いコードのどちらかを切ればタイマーが止まる時限爆弾など、生存率が50%も担保されている良心的なシロモノに感じてしまう。「音を立てたら即死」がウリの作品も様々存在するが、本作の爆弾はタチが悪く、決められたデシベルを上回っても即爆発はしない。その代わり、制限時間が一気に半分まで減る。時間が多く残っているほど、一瞬で多くが失われるのだ。しかも爆弾を処理する人間ではなく、事情も知らずその周りで騒音を出し続けている「守るべき人々」によって。

 

主人公は、家族ともども謎のテロリストに標的にされた元海軍副長のカン・ドヨン。彼には以前、潜水艦で指揮を執っていた過去がある。潜水艦は窓がないので、水中の物体が発する音や潜水艦自ら発した音波の反響を分析するソナーによって、周辺の状況を把握する。音に助けられてきた男が、皮肉にも今度は音に殺されようとしているわけだ。テロリストの目的と正体は、ドヨンの過去に潜んでいる…。

ギリシャ神話では、運命の三女神が紡ぎ、長さを決め、断ったその糸が人間の寿命となるのだが、かなりシリアスな爆弾捜索・解除パートが続いたと思ったら緊張の糸をブチブチと切るようにコミカルなシーンを入れてくる軽やかさは、さすが韓国映画といった所だ。成り行きでドヨンとタッグを組むことになる記者のオ・デオは犯人に翻弄され、恥ばかりかかされる。本人は至って真面目に爆発を阻止しようとしているのが何とも悲しくもおかしい。この男がいなければ、本作の鑑賞は大変な気力を要するものになったろう。水底から地上に上がっても、常に水圧(プレッシャー)に押し潰されそうなドヨンと(名前からして)重い過去は、直視するにはあまりに辛すぎる。

ときに、大海原に浮かぶ板きれに乗せるひとりを選ばせるがごとく残酷な二者択一を迫るテロリスト。しかしこの所業の理由を知れば、この爆弾の作りが単に観客のウケを狙ったものではないと分かり、そして逆に観客には何が正しくて何が間違っているのか分からなくなる。ひとつだけ正しいことがあるとすれば…、うるさいのは生きている者の特権だ。今のうちに生を謳歌しよう。

【ストーリー】 
大都市・釜山。ある一軒家で起こった爆破事件のニュースを目にした元海軍副長カン・ドヨンにかかってきた一本の電話。「次のターゲットは、サッカースタジアムだ。通報したり観客を避難させたら爆発する」。それはテロリストからの脅迫だった。仕掛けられたのは普通の爆弾とは違い、騒音が一定のデシベルを超えると制限時間が半減して爆発する特殊爆弾だ。ドヨンは事態を把握する間もなく、5万人の観衆で埋め尽くされた釜山アシアード競技場に向かうが…。

【キャスト】
キム・レウォン、イ・ジョンソク、チョン・サンフン、パク・ビョンウン、チャウヌ(ASTRO)

【スタッフ】
監督: ファン・イノ

脚本:ファン・イノ、イ・ジンフン

2022|韓国|110分|シネスコ|5.1ch|原題:데시벨|英題:DECIBEL|字幕翻訳:福留 友子|配給:クロックワークス|G
(C) 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

公式HP:https://klockworx-asia.com/decibel/
映画公式X:@decibelmovie「#デシベル」

11月10日(金)新宿バルト9ほか全国公開

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