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『告白、あるいは完璧な弁護』真実を掘り起こせ。それが墓穴になろうとも…。

◆今週公開の注目作

『告白、あるいは完璧な弁護』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

少し前までマルチバースなどという概念はあまり一般的ではなかったのに、ここ数年でマルチバース映画は全く珍しくなくなった。そのような作品を見る時に求められるのは、元の世界と別の世界、そしてさらに別の世界…の相違点に気づく能力だ。ほとんど一緒だが少し違う、間違い探し的な要素が、あらゆる可能性が存在することを面白く感じさせてくれる。

もちろん本作はマルチバース映画ではない。韓国産のサスペンス映画だ。正確に言えばオリジナル作品ではなく、スペイン映画『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』の韓国版リメイクになる。同作はイタリアでも『インビジブル・ウィットネス 見えない目撃者』としてリメイクされており、根幹のアイディア自体が何度も語り直すにふさわしいものであることは間違いない。

本作は、実業家のユ・ミンホが愛人キム・セヒ殺しの容疑をかけられるところから始まる。セヒはホテルの密室で殺されていた。ミンホの言い分では、不倫をネタにゆすろうとした何者かによって2人はホテルに呼び出され、部屋でミンホは何者かに気絶させられた。そしてその間にセヒは殺され、ミンホの意識が戻った頃に警察が突入、部屋は密室だったのでミンホが犯人として疑われたというわけだ。潔白を訴えるミンホが身を隠した雪山の別荘に有能なヤン・シネ弁護士が訪れ、真犯人が誰なのかを探っていく…。これがあらすじである。

さて、なぜ最初にマルチバースの話をしたのかというと、本作でも同じような思考力が試されるからだ。セヒ殺人事件が密室で起こったように、本作のストーリーもまたほとんど密室の中で展開される。ミンホとシネ弁護士が話し合っているだけだ。しかし、ここが本作が一筋縄ではいかない理由なのだが、彼らの主張・推理は全て映像化される。観客は、スクリーンに映されたものは真実だと思いがちだ。その先入観を利用したギミックで、観客はあらゆる可能性に振り回される。

ミンホの話を聞いていると、どうやら殺人事件の前にある交通事故にも関わっているらしいことが明らかになる。ミンホが、当時車を運転していたのはセヒだと主張すると、そのような回想(?)が流れる。しかし、シネ弁護士がミンホを怪しんで「本当はあなたが運転していたのでは」と推論を披露すると、ミンホとセヒが入れ替わった映像が映し出され、しかも辻褄はどちらのパターンでも合っている…という困った状況になる。証拠がないので、理屈さえ合っていればどのような話もでっち上げられるのだ。マルチバースのように、Aパターンはこれ、Bパターンはこれ…と整理しながら見なければ、たちまち置いていかれる。

少々ハードルが高いように思われるかもしれないが、翻弄されるのがサスペンス映画の醍醐味でもある。シネ弁護士とともに、二転三転する状況の中で真実を見つけ出す難しさを味わってほしい。見つけた真実が望ましいものとは限らないけれど。

【ストーリー】
IT企業社長ユ・ミンホの不倫相手キム・セヒが密室のホテルで殺された。事件の第一容疑者となったミンホは潔白を主張し、100%無罪を勝ち取る敏腕弁護士ヤン・シネを雇い事件の真相を探り出す― 。そこで以前に起きた1つの交通事故がセヒの殺人に関係しているかもしれないと告白し、事件の再検証がはじまるが…。

【キャスト】
ソ・ジソブ、キム・ユンジン、ナナ(AFTERSCHOOL)、チェ・グァンイル 他

【スタッフ】
監督・脚本:ユン・ジョンソク『マリン・ボーイ』 
(C)2022 LOTTE ENTERTAINMENT & REALIES PICTURES All Rights Reserved.
公式サイト:https://synca.jp/kokuhakuaruiwa/ 

 6月23日(金)シネマート新宿、シネスイッチ銀座、グランドシネマサンシャイン池袋、YEBISU GARDEN CINEMA 他全国公開

 

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