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『デスパレート・ラン』先になくなるのはスマホのバッテリーか息子の命か。「助かるか」ではなく「助けられるか」を描くワンシチュエーション・スリラー!

◆今週公開の注目作

『デスパレート・ラン』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

ワンシチュエーション・スリラーには、密室の中で話が展開するというイメージがあるかもしれない。このジャンルの礎となった『CUBE』や『ソウ』などはまさにそうだ。しかし、ダイビング中に海のど真ん中に取り残される『オープン・ウォーター』や、2月に公開された、600メートルのテレビ塔に登って降りられなくなる『FALL/フォール』など、厳密には密室でない場合もこのジャンルに含まれる。この状況から抜け出せそうで抜け出せないのが、密室よりも絶望感を煽るのだ。本作『デスパレート・ラン』は、それをまた違った角度から描くスリラーになっている。

ナオミ・ワッツ演じる主人公エイミーは1年前に事故で夫を亡くし、そのせいで引きこもりになった息子ノアとぎくしゃくしてしまっている。エイミー自身もまた夫の死から立ち直れておらず、心の平穏を求めてジョギングで気を紛らわせる毎日だ。ある朝、いつものように部屋から出てこないノアに話しかけた後に近くの森までジョギングに出ると、スマホから警報が鳴り響く。ノアの通う学校で銃を持った犯人が立てこもり事件を起こしたのだ。知り合いに連絡をとると、学校にノアのトラックが止まっていることが判明。しかしエイミーはすでに家から遠く離れ、使える物はスマホしかない。果たしてノアは学校にいるのか、エイミーはスマホひとつでノアを救えるのか、という緊迫感のあるシチュエーションに観客も一緒に放り込まれる。主人公は救われる側でなく、救う側なのだ。

 

森は密室ではないが、どこまで走っても風景が変わらない。進もうとしても前に行けない夢のようだ。焦って学校へ向かおうとしても道を外れるだけ。事件のせいで町の交通網は麻痺し、スマホで他人に何かを依頼しようにも、車では思うように移動できない。だが、だからといって自分ではどうしようもない。カメラはエイミーしか映さないので、観客も彼女とともにひどいもどかしさを感じなければならない。脚本のクリス・スパーリングは過去、どこかに埋められた棺に閉じ込められた男のワンシチュエーション・スリラー『[リミット]』と、青木ヶ原樹海で出会った自殺志願者たちのドラマ『追憶の森』(ワッツも出演)を手がけている。『デスパレート・ラン』はこの2つの合わせ技と言えるだろう。

 

 

ただ時間だけが過ぎ状況が悪化して行く度に、どうすれば良いか分からない心と同様にエイミーは森に迷っていく。スマホのバッテリーは、彼女の精神力を表すかのように少しずつ減っていく。銃社会でない日本に住む我々には関係ないと思われるかもしれないが、立てこもり事件自体は日本でも起こっているし、直接相手を助けられない状況はどこにでも転がっている。「相手の困りごとを知っている」だけでは手助けできない。だが何度でもトライしなければ絶対に助けられない。84分にわたって画面を支配し続けるワッツの迫真の演技からは、そういったメッセージを感じずにはいられないだろう。

【ストーリー】
夫に先立たれたばかりのエイミー・カーは、幼い娘と10代の息子のために、小さな町で平穏な生活を取り戻そうと懸命に働いている。ある朝エイミーがひとり森の中をジョギングしていると、息子の通う高校でたてこもり事件が発生し、町が大混乱に陥る。助けも移動手段もない中、エイミーは愛する息子を救うため、スマホを駆使して必死に時間との闘いに挑む。

【キャスト】
ナオミ・ワッツ、コールトン・ゴッボ、アンドリュー・チョーン、シエラ・マルトビー 他

【スタッフ】
監督:フィリップ・ノイス
脚本:クリス・スパーリング
プロデューサー:ナオミ・ワッツ、クリス・スパーリング 他

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