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『ドント・ウォーリー・ダーリン』言われた通りにしていれば、心配は要らないよ。フローレンス・ピューが迷い込む、“悪夢の国のアリス”の世界。

◆今週公開の注目作

『ドント・ウォーリー・ダーリン』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

本作は「ユートピアスリラー」と紹介されている。スリラー好きの方であれば、主演がフローレンス・ピューと聞いて心がざわついたはずだ。きっと、昨年ヒットした『ミッドサマー』を思い出したことだろう。同作はフローレンス扮する女子大生が、スウェーデンにあるユートピアのような村で“幸せ”を見つける物語だ。『ドント・ウォーリー・ダーリン』の監督を務めたオリビア・ワイルドも同作を鑑賞したらしく、当初は自身主演で考えていたもののフローレンスを起用することに決めたという。本作もまた、“幸せ”を巡るおとぎ話になっている。

フローレンス演じる人妻のアリスは、1950年代のような外観の「ビクトリー」という街で夫のジャックと幸せに暮らしている。ジャックを含めた男たちは「ビクトリー・プロジェクト」なる計画に着手しているようだが、詳細について妻たちは何も知らされていない。献身的に夫を支えることが是とされる理想郷で従順に過ごしていたアリスは、徐々に街の暗い秘密に気づいていく。…アリス、ジャックという名前でピンと来たかもしれない。またオリビアは女優としても出演し、アリスの親友を演じている。その名はバニーだ。これは、オリビア・ワイルドというウサギによって紡がれる『不思議の国のアリス』…いや、“悪夢の国のアリス”なのだ。

奇妙な街、男たちの謎のコミュニティ、“理想的”な妻たち…と来れば思い出されるのは、『ローズマリーの赤ちゃん』で知られる作家アイラ・レビン原作のスリラー『ステップフォード・ワイフ』だ(ビクトリー・プロジェクト創設者の名は、リメイク版『ステップフォード・ワイフ』の監督フランク・オズと同じフランク)。同作では、夫婦がステップフォードという街に引っ越すが、夫は男たちしか入れない集団に参加し、妻は街に違和感を覚えていく。オリビアはその世界観にいくつもの不気味なイメージを重ね、本作の形に仕上げたという印象を受ける。中身のない卵、違う像を映し出す鏡、万華鏡のような群舞…。アリスもまた徐々に閉塞感に押し潰され、息苦しくなっていく。

『ミッドサマー』でもそうだったが、フローレンス・ピューは不快な表現で観客に快の感情を味わわせることに長けている。演技が生々しく、こちらは嫌な気分になりながらも感心してしまうのだ。非現実的に見えるスリラーのリアリティを担保してくれる。…そしてそのために分からなくなる。本作が描いているのは悪夢か現実か。それとも悪夢のような現実か。勝者がいれば敗者がいる。スクリーンに映る不憫なフローレンスを見て我々の心が満たされるように、万人にとって幸せな社会などなく、ユートピアも語源通り「どこにもない」のでは? 愛する人のことを「ハニー」と呼ぶのはなぜだろう? だからこそ「他人の不幸は“蜜”の味」なのだろうか? しかし、本作には『ミッドサマー』とは別のエンディングが用意されている。あちらの“幸せ”が受け入れられなかった方は、本作をこそ求めていたのかもしれない。

【ストーリー】
完璧な生活が保証された街で、アリスは愛する夫ジャックと平穏な日々を送っていた。そんなある日、隣人が赤い服の男達に連れ去られるのを目撃する。それ以降、彼女の周りで頻繁に不気味な出来事が起きるようになる。次第に精神が乱れ、周囲からもおかしくなったと心配されるアリスだったが、あることをきっかけにこの街に疑問を持ち始めるー。

【キャスト】
フローレンス・ピュー、ハリー・スタイルズ、オリビア・ワイルド、ジェンマ・チャン、クリス・パイン 他

【スタッフ】
監督:オリビア・ワイルド
原案:キャリー・バン・ダイク&シェーン・バン・ダイク、ケイティ・シルバーマン
脚本:ケイティ・シルバーマン

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公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/dontworrydarling/

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