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『#スージー・サーチ』SNS時代の透明人間が、誰の目にも映るためには?

◆今週公開の注目作

『#スージー・サーチ』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

妙な時代になった。小鳥のさえずり(ツイート)のような小さな呟きは今や、世界中の誰の耳……目にも届く大声となった。この一文ですでにややこしいことからも、現代が複雑な状況なのは明白だ。スマホさえ持っていれば、誰でも一瞬で世界と繋がれるようになったのはひとえに人間の輝かしい進化のおかげだが、それでも人間にはまだ早すぎる技術だと言わざるを得ない。むしろ、人間にはいつまでも本当の意味で使いこなすのは不可能なのかもしれない。「自分」対「世界」の特大スケールのコミュニケーションが、片手に収まる極小スケールでできてしまうアンバランスさの危険性に気づいていない。社会的動物である人間は、SNSなる新たな社会で、自らの意志で産まれ直している。そしてさえずりという名の産声を上げるのだ。人によってはずっとそのまま泣き続け、注目という名のミルクをねだる。

本作『#スージー・サーチ』の主人公スージーはSNSでなく、ポッドキャストで自らの存在を世界にアピールしている。(劇中の)実際の未解決事件を扱う、いわゆる「トゥルー・クライム」系のポッドキャスターだ。以前紹介した、ディズニープラスで配信中のドラマ『マーダーズ・イン・ビルディング』も同様の設定だった。トゥルー・クライム番組は以前から海外で人気を博しており、スージーもその波に乗ろうとしているのだが、全く上手くいっていない。底辺ポッドキャスター兼素人探偵などという絶対に成功しないはずの彼女は、行方不明の同級生ジェシーの事件を追いかけているうちに何と本人を見つけてしまい、世界から認知される。夢が叶った彼女だが、まだ番組は終わりではない。犯人は見つかっていないのだから。何より、承認欲求はまだ満たされていないのだから……。

こうして偉そうに“バズ狂い”に対して批判的に書いている筆者もまた、弱小ながらSNSアカウントを持っている。スージーほど目立ちたいと思っているわけではないが、それこそ独り言で終わらせて良いような内容を日々投稿している。盛大にバズりはしなくとも、誰かの目に止まっているのは確かだ。それだけで、少し満たされたような気になる。この文章を読んでいるあなた方の多くも、ある程度身に覚えがあるだろう。別に、承認欲求自体は悪ではない。逆に、持っているのが自然だ。心理学を学ぶとすぐ教えられるマズローの欲求階層説では、人間は食欲など最も基本的な欲求が満たされた後、心身の安全、家族や会社などの集団への所属と、徐々に高いレベルの欲求が生まれると言われる。そして、その次に生まれるのが承認欲求だ。

承認欲求の中には、他人から認められたい「低位の承認欲求」と、自分を認められるようになりたい「高位の承認欲求」がある。さらに、承認欲求の次には、理想の自分になるという自己実現の欲求が待っている。しかし、現代社会では、身の丈に合わない承認が簡単に得られる場合がある。これはもはや最先端にして無料のドラッグであり、一度その味を知れば恐らく二度と満足できなくなる。それとも、今の自分に不満しかないから、“実現可能な理想の自分”などないから、低位の承認欲求レベルで頭打ちになってしまうのか。本来は、世界と繋がる前にやるべきことは山ほどあるはずだ。何かを投稿する際は、自分の中にスージーがいないか検索してみよう。

【ストーリー】
ポッドキャストで未解決事件の配信を続けるものの、なかなかフォロワーの増えない孤独な大学生のスージー。ある日、保安官事務所でのインターン中に、インフルエンサーとして絶大な人気を誇る同級生のジェシーが、行方不明になっていることを知る。ジェシーがいなくなって1週間。独自の調査を始めたスージーは、なんとポッドキャストの配信中に失踪したジェシーを発見!番組は大きな反響を呼び、一躍脚光を浴びる存在になる。誰もが羨む名声を手に入れたスージーは、捕まっていない犯人を追って配信を続けるが、事態は思わぬ方向に転がっていき——。

【スタッフ】
カーシー・クレモンズ、アレックス・ウルフ 他

【キャスト】
監督・原案:ソフィー・カーグマン

公式サイト:https://sundae-films.com/susie/#modal

 

 

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