『カンダハル突破せよ』今回のジェラルド・バトラーは一味違う！砂と死の世界を抜けて、娘のためにガンダーラ…もといカンダハルを目指せ！

2023.10.18

◆今週公開の注目作

『カンダハル突破せよ』

ジェラルド・バトラー。彼は名前の通り、どの映画でも戦っている。いや、正確には「バトラー」のスペルは「Butler（執事）」なのだが、「Battler（戦う人）」に改名した方がしっくり来るというくらい、いつも誰かと戦闘している。さて、では今回戦う相手は誰なのか？　これが、よく分からない。勢力が多すぎて、だ。

彼が演じているトム・ハリスはCIAのエージェントで、イランの核開発を妨害するため現地で秘密裏に活動している。ぶっきらぼうで敵に囲まれても顔色ひとつ変えない彼は、なるほど、無骨ながら骨のある男だ。映画が始まってすぐに原子炉を自爆させることに成功するほど有能ながら、無事に帰るまでがスパイのお仕事。これまで任務にかまけて家族をないがしろにし、妻に愛想を尽かされそうなハリスも、せめて間近に迫った高校生の娘の卒業式には出席したい。だが、“愛人”である任務の方もハリスを離そうとはしない。砂漠だらけのこの国で、砂地獄に足を取られる中、あるニュースが飛び込んでくる。

スパイとは、命を懸けて仕事をしても表向きに評価されてはいけないものだ。それなのに、テレビは彼の“功績”をデカデカと報じている。正体を知られたハリスは、死地から脱出するためにアフガニスタンのカンダハルまでたどり着かなければならなくなったのだ…命を賭けて。これはあくまで俗説のようだが、カンダハルの名前の由来はあの仏教発祥の地ガンダーラとも言われているらしい。昔ゴダイゴが「そこに行けばどんな夢もかなう」と歌っていたが、命あっての物種、そこに生きてたどり着けさえすればもう何だって叶えられる。娘の卒業式への出席という、些細で重大な夢でも。しかし、彼の前にはイラン、パキスタン、タリバン、傭兵集団（上手く韻を踏んでいる）が立ちはだかり、誰が敵で誰が味方かもよく分からない。確実なのは、これらをブチ抜いて突破しなければ未来はないということだけだ。

本作はアクション・スリラーと表現しても間違いはないが、いつものバトラーのアクションを期待すると肩透かしを食らう可能性がある。ポリティカル・スリラーと呼ぶ方が近いかもしれない。全編がシリアスで重く、暗い。物理的にも暗い。なぜなら、ハリスがひた走るのは街灯などない砂漠の真っただ中だからだ。驚くほど画面は闇に支配され、不気味な虚無の中でハリスは敵兵やヘリとも戦わなければならない。暗視ゴーグルの視界の映像が映し出すのは、まさに死界だ。死は映画のように派手に訪れるのではなく、地味にそっと忍び寄る。本作自体も全く派手さのない作りで、観客に安易な希望を抱かせない。ハリス含め、重要人物の多くに娘や息子がいることも、重い現実としてのしかかって来る。

ただ、ハリスの相棒となる通訳のモハメドは、唯一と言って良いだろう希望を感じさせるキャラクターだ。バベルの塔のエピソードでは、それまで人々は単一の言語を使っていたのに、天にも届く塔建設の不敬に怒った神が言葉をバラバラにし、そこから争いが生まれていく。そういう意味では、通訳は敵とされる者との架け橋になりえる存在だ（まあ、それだけで解決する話ならバトラーは要らないのだが）。リック・ローマン・ウォー監督とバトラーは、『エンド・オブ・ステイツ』、『グリーンランド -地球最後の2日間-』と来て今回で3度目のタッグとなる。ウォー作品ではいつもバトラーは逃げていたような…と考えると、いつものバトラー・アクションでないのもさもありなん、といったところだろう。砂の世界に置いてけぼりを食らいたくなければ、少し中東情勢について予習してから臨むのがオススメだ。

【ストーリー】
イラン国内に潜入中のCIA工作員トム・ハリス（ジェラルド・バトラー）は、核開発施設の破壊工作に成功した直後、CIAの内部告発により機密情報が漏洩し全世界に正体が明かされてしまう。即刻ミッションを中止し中東からの脱出を図るトムが目指すのは、アフガニスタン南部のカンダハルにあるCIA基地。30時間後に離陸する英国SAS連隊の飛行機に乗らなければ、生き残るチャンスはない。イランの精鋭集団・コッズ部隊のほか、パキスタン軍統合情報局（ISI）も絶好の「金づる」になりうるトムの捕獲に乗り出し、さらに、タリバンの息がかかったゲリラ、金次第で敵にも味方にもなるウォーロード率いる武装集団など、トムの行く手にはさまざまな勢力が立ちはだかり、敵味方の入り乱れる壮絶な死闘へと追跡劇が繰り広げられるのだった。はたして執拗に襲いかかる敵の追跡をかわし、無事カンダハルに辿り着くことができるのか？

【キャスト】
ジェラルド・バトラー、ナヴィド・ネガーバン、アリ・ファザール、バハドール・フォラディ、トラヴィス・フィメル、ニーナ・トゥーサント＝ホワイト

【スタッフ】
監督：リック・ローマン・ウォー『エンド・オブ・ステイツ』『グリーンランド―地球最後の2日間―』
脚本：ミッチェル・ラフォーチュン
配給：クロックワークス
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.
Twitter：@KlockworxInfo
公式サイト：klockworx.com/movies/kandahar

2023年10月20日(金)公開

屋我平一朗

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