MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

Netflix『イクサガミ』は、岡田准一という“武人”の到達点──侍デスゲームを支える肉体と矜持

この映画は、つまり―
  • ドラマ「SP」から始まった、岡田准一アクション進化の“いま”
  • “岡田アクション”が侍デスゲームの中で炸裂する
  • 明治という変わり目に取り残された侍たちのサバイバルが胸を打つドラマ

記事を見る

◆配信中の注目作

『イクサガミ』
配信先:Netflix

ドラマ「SP」から始まった、岡田准一アクション進化の“いま”

Netflixシリーズ『イクサガミ』を観てまず圧倒されるのは、292人の侍が木札を奪い合うデスゲームのスケール以上に、その中心で画面の空気を変えてしまう岡田准一の“身体”だ。主演、プロデューサー、アクションプランナー──三つの役割を引き受けた岡田は、この作品で「アクションもこなせる俳優」ではなく、「武人がドラマを創る」段階にまで踏み込んでいる。

その現在地の出発点として、多くの視聴者が思い出すのはやはり連続ドラマ「SP 警視庁警備部警護課第四係」だろう。あの作品で岡田は、従来の日本のテレビドラマではあまり見られなかった、打撃・投げ・関節技を織り交ぜたフルコンタクト寄りのアクションに本格的に挑み、自分の身体で“護るために戦う人間”の動きを組み立てていった。スタントに任せるのではなく、カメラの前で自ら転び、殴られ、跳ぶ。その積み重ねが、「アイドル出身の人気俳優」から「身体で語るアクション俳優」への大きな転換点になった。

そこから先の岡田は、作品ごとに武術そのものを掘り下げていく。カリシラット、ジークンドー、修斗、ブラジリアン柔術、そして剣術。ジャンルの壁をまたいで学び続け、そのいくつかでは指導する立場にも立つようになった。スクリーンに立った瞬間の“立ち姿の重さ”や、わずかな重心移動だけで間合いを支配してしまう感覚は、その訓練の蓄積から生まれている。

『図書館戦争』ではミリタリー的な銃撃戦とチーム戦術、『関ケ原』『燃えよ剣』では合戦や剣戟、『ファブル』『ヘルドッグス』では現代バイオレンスの「間合い」や「抜き差し」、そして古典的チャンバラの美学を極めにいった『散り椿』。時代劇と現代劇、銃火器と刃物、その両方でアクションの土台を作り続けてきた延長線上に、『イクサガミ』が位置している。292人の元武士が命と誇りを賭けて駆け抜ける物語でありながら、同時に「岡田准一のアクション表現がどこまで来たのか」を見せるショーケースでもある。

“岡田アクション”が侍デスゲームの中で炸裂する

岡田のアクション史をざっと振り返るだけでも、『図書館戦争』のミリタリーアクション、『関ケ原』『燃えよ剣』の合戦と剣戟、『ファブル』『ヘルドッグス』の現代バイオレンス、『散り椿』の古典チャンバラと、振れ幅はかなり大きい。だがどの作品にも共通しているのは、「リアルさ」と「見せ場」のあいだにある、ちょうどいいバランスを狙いにいく姿勢だ。生身の重さを感じさせつつ、スクリーンの前で観客を高揚させる“ケレン”もきちんと用意する。その感覚が、『イクサガミ』では侍デスゲームというフォーマットの中で一気に噴き上がる。

岡田が本作で演じるのは、「人斬り刻舟(こくしゅう)」の異名を持つ元剣客・嵯峨愁二郎。西南戦争終結から数年、武士は士族と名を改められ、禄も特権も失い、コレラの流行で生活は崩壊寸前だ。かつて戊辰戦争や上野戦争で名を轟かせた愁二郎も、いまや病に苦しむ妻と子どもたちを抱え、日々の暮らしにも事欠く立場に追い込まれている。

過去のある出来事をきっかけに刀を抜くことさえためらいながらも、家族を救うために彼が応じるのが、「武芸に秀でた者に金十万円の機会を与える」という謎の布告だ。京都・天龍寺に集められた292人の志士たちは、首から下げた木札を奪い合いながら、東海道のチェックポイントを通過し、東京を目指す“蠱毒(こどく)”と呼ばれるデスゲームに放り込まれる。木札を首から外して10秒以上離した者は即失格──つまり死。賞金十万円は、当時の国家予算に匹敵するほどの途方もない額であり、参加者はそれぞれ、生き残りたい理由と奪い合わざるを得ない事情を抱えている。

この苛烈なルールの中で、“岡田アクション”の真骨頂が一気に解き放たれる。天龍寺の乱戦シーンでは、無数の侍たちが一斉に動き出し、刀、槍、弓、素手が入り乱れる。だが画面は決してごちゃごちゃしない。誰がどこで命を賭けているのか、どの一太刀が状況をひっくり返したのかが、きちんと見えるように設計されている。

重要なのは、アクションが岡田だけの特別な見せ場に偏っていないことだ。愁二郎の殺陣はもちろん作品の軸だが、その周囲で戦う香月双葉(藤﨑ゆみあ)、衣笠彩八(清原果耶)、柘植響陣(東出昌大)、カムイコチャ(染谷将太)、貫地谷無骨(伊藤英明)、岡部抜刀斎(阿部寛)らの動きにも、それぞれの“流派”がある。キャラクターごとに違う武器や距離感、立ち振る舞いが、東海道を縦断する蠱毒の旅路を豊かなアクション群像劇へと押し上げている。

一作ごとにアクションの文法を更新してきたフィルモグラフィの先に、「配信シリーズ×侍デスゲーム」という新しいフィールドが用意され、その上で岡田が自分のアクション美学と設計力を総動員している。その総決算のひとつとして、『イクサガミ』は非常に見ごたえのある一本になっている。

明治という変わり目に取り残された侍たちのサバイバルが胸を打つドラマ

『イクサガミ』の舞台は、武士の時代が終わり、近代国家が形を取り始めた明治十一年だ。元武士たちは「士族」と呼び名だけを残され、禄も特権も奪われ、慣れない商売や日雇いで生き延びようとしている。そこにコレラの流行が追い打ちをかけ、人々の暮らしは一気に崖っぷちへ追い詰められる。そんな時代に現れるのが、武芸に秀でた者に金十万円のチャンスを与えるという、得体の知れない布告である。

この設定のベースになっているのが、直木賞作家・今村翔吾による原作小説『イクサガミ』シリーズだ。京八流という古流剣術や、「東海道を舞台にした蠱毒」というアイデアを軸にしたエンタメ時代小説であり、ページをめくるたびに新しい刺客と宿場町のドラマが現れる構成は、そのまま連続ドラマとの相性がいい。映像版は人物配置やルートを再構成しつつ、「武士の終わり」と「近代日本の始まり」という原作のテーマを、より視覚的なサバイバルドラマとして立ち上げている。

物語の背景には、内務卿・大久保利通、日本の警察制度を整えた「日本警察の父」こと初代大警視・川路利良、日本近代郵便を築いた駅逓局長・前島密といった実在の要人たちも顔を出す。近代国家の枠組みを作り上げていく政治と資本の側と、その足元で蠱毒に駆り出される士族たち。新しい日本の“表舞台”と、“捨て駒”にされる元武士の姿が、デスゲームというエンタメの形を借りて同じフレームに収められていく。

その真ん中に立たされる嵯峨愁二郎は、単なるデスゲームの主人公ではない。かつて「人を斬ること」でしか存在意義を認められなかった剣客が、すべてを失ったあとにもう一度だけ刀を抜く物語であり、その決断と、その後始末までを引き受ける男の物語でもある。

明治という変わり目の中で、時代に取り残された人々がどう生き延びようとするのか。そのドラマが、岡田准一をはじめとするキャストのアクションと共に立ち上がることで、『イクサガミ』は単なる“殺し合いのゲーム”を超えた重さを帯びていく。全6話のシーズン1に詰まっているのは、東海道を駆け抜ける侍たちの死闘であり、変わりゆく日本の片隅で必死に居場所を求める人間たちのサバイバルでもある。

時代劇が好きな人も、デスゲームものに惹かれる人も、あるいは単純に「岡田准一のアクションの現在地を見たい」という人も。『イクサガミ』は、そのどの入り口から入っても確実に肉体の熱を感じられる、配信時代ならではの侍エンターテインメントになっている。

『イクサガミ』
2025年11月13日(木) Netflixにて世界独占配信(全6話・一挙配信)

【ストーリー】
京都・天龍寺に集められた“志士”292人が、配られた木札を奪い合い、東京到達者に巨額が与えられるサバイバルに参加する。武器も戦い方も思惑も“292通り”。混乱の中、嵯峨愁二郎は生き残りの選択を迫られる。

【キャスト】
岡田准一、藤﨑ゆみあ、清原果耶、東出昌大、染谷将太、早乙女太一、遠藤雄弥、岡崎体育、城 桧吏、淵上泰史、榎木孝明、酒向 芳、松尾 諭、矢柴俊博、黒田大輔、吉原光夫、一ノ瀬ワタル、笹野高史、松浦祐也、宇崎竜童、井浦 新、田中哲司、中島 歩、山田孝之、吉岡里帆、二宮和也、玉木 宏、伊藤英明、濱田 岳、阿部 寛

【スタッフ】
監督:藤井道人、山口健人、山本 透
原作:今村翔吾『イクサガミ』シリーズ(講談社文庫刊)
脚本:藤井道人、山口健人、八代理沙/音楽:大間々昂
撮影:今村圭佑、山田弘樹/照明:平山達弥、野田真基
プロダクションデザイナー:宮守由衣/衣装デザイン:宮本まさ江
キャラクタースーパーバイザー:橋本申二/VFX:横石淳
助監督:山本 透、平林克理
エグゼクティブ・プロデューサー:髙橋信一/プロデューサー:押田興将
主演・プロデューサー・アクションプランナー:岡田准一
制作プロダクション:オフィス・シロウズ/企画・製作:Netflix

【作品情報】
Netflix作品ページ:https://www.netflix.com/イクサガミ

 

★配信エンタの過去記事はこちら

『ザ・コンサルタント2』人間は決して一面的なものじゃない。そして、それは映画も同じ。

『コンパニオン』運命を、“愛”を超えろ。真の“わたし(I)”になるために。

『室町無頼』これは時代劇の皮をかぶったアウトローたちの生存劇だ!

『ザ・ヒューマンズ』たわいもない家族の団欒。“他愛”もない人間たちの寄せ集め。

「止まったら爆発」から50年——再起動するスリルとリアル『新幹線大爆破』Netflix版の真価

 
バックナンバー