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『DROP/ドロップ』スマホを持ってただけなのに。

この映画は、つまり―
  • スマホは最先端の凶器
  • 他人との距離は近くて遠い、人混みでも独り
  • 最後に落下(ドロップ)するものは

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◆配信中の注目作

『DROP/ドロップ』
配信先:U-NEXTApple TVAmazonプライム

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

現代社会でスマホを手放せる人間はそういない。ヒマさえあればまずスマホ。ヒマなどなくともまずスマホだ。少なくとも筆者はそうである。しかし、1対1で話している最中にさえこちらの顔よりスマホを見る回数が多い人間を見ると、「自分のスマホ中毒もまだマシだな」と思える。その程度には病んでおり健やかだ。まあ、もしかしたら相手にも何かしら事情があったのかもしれない。それなら許してやらないこともない。本作で描かれるような事件にでも巻き込まれていたというのなら。

本作『DROP/ドロップ』は、快作ホラーコメディ『ハッピー・デス・デイ』シリーズなどを手がけたクリストファー・ランドン監督の最新作だ。DV夫に殺されかけた過去を持つシングルマザーが、過去を断ち切るため幼い息子を妹に預け、マッチングアプリで知り合った謙虚で誠実そうな写真家の男性とデートに繰り出す。そしてその最中に、現代的な凶器により恐怖のどん底に叩き落とされる。それがタイトルにもあるスマホのAirDrop機能だ(名称は変えられている)。対応している近くのスマホ同士であれば、メールなどに頼らずとも瞬時にデータやメッセージを送受信できる非常に便利な機能ながら、きちんと設定していないとスマホを落とさずとも見知らぬ他人から勝手にスマホに何かを“落と(ドロップ)”される。現実世界でも、この機能で不適切な画像をいきなり送りつけられる被害が起きているが、本作で主人公のヴァイオレットが送りつけられるのは息子を人質にした脅迫メッセージだ。

デート場所は高層ビルの最上階にあるレストラン。幸せに一歩踏み出そうとした彼女のスマホには、謎の人物からの命令と、リアルタイムで自宅へ侵入する何者かをとらえた防犯カメラの映像が映し出される。素敵な男性ヘンリーとのデートを表面的には進めながら、上手く犯人を出し抜かなければならない。メッセージが届くならばつまり、犯人もこのレストラン内にいる。ところがそれは同時に、常に犯人から監視されていることも意味している。それに、スマホを触らない人間はいない。ヴァイオレットは、燃える情熱と青褪めるほどの恐怖の間で揺れるスミレの花だ。果たして彼女は、息子への愛と新たな愛を掴むことができるのか?

ホラー監督でありながらも基本的にコミカルな作品ばかり撮ってきたランドンだが、本作では完全に笑いを捨てシリアスなサスペンス・スリラーをやろうとしている。何せ、コメディリリーフとして登場するウェイターは終始スベりまくりで、事態を何ら好転させないのだから! ヴァイオレットが店外に逃げるのも禁じられているので、本作は場面が限定されたシチュエーション・スリラー的でもある。画面が単調になるのを防ぐため、舞台劇のように照明が落ちるとヴァイオレットの心情を示すシーンにシームレスに移行するなどの目を引く演出が用いられているが、これはまさにインターネット時代の闇を象徴している。異常者ともすぐに繋がれるほど距離が近いのに、隣のテーブルは助けを求める声が届かないほどに遠い。大勢の人の中にいるのに、誰ともコミュニケーションできずに孤独。技術の進歩は人間に何をもたらしたのだろう?

ヴァイオレットの機転は、非情にもことごとく叩き潰される。その度にデートは気まずい雰囲気に。最後に落ちるのはヴァイオレットの涙の雫か、それとも。少なくとも、AirDropから始まった物語だけに最後には粋なオチがつく。素敵な人間には甘いドロップを。卑劣な人間にはバックドロップを!

【ストーリー】シングルマザーのヴァイオレットは、辛い過去を振り切るためマッチングアプリで出会った男性とのデートを決意する。しかしデート中に、それを阻むような脅迫メッセージがスマホに届く。従わなければ、自宅にいる幼い息子の命が奪われる。容疑者は、メッセージの送信が可能な近距離にいる、スマホを持つ者全員。

【キャスト】
メーガン・フェイヒー、ブランドン・スクレナー、ヴァイオレット・ビーン 他

【スタッフ】
監督:クリストファー・ランドン

 

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