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『シンパシー・フォー・ザ・デビル』旅は道連れ。地獄へ道連れ。

この映画は、つまり―
  • 旅の荷物は地獄への片道切符のみ
  • ニコラス・ケイジの悪魔的チャーミングさ炸裂
  • シンパシー(同情)とエンパシー(共感)

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◆配信中の注目作

『シンパシー・フォー・ザ・デビル』
配信先:U-NEXTAmazonプライムAppleTVhulu 

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

改めて言うまでもないことだが、車は非常に便利な乗り物だ。短い時間で遠くまで行けるし、窓を閉め切って音楽を流せば走るひとりカラオケボックスにもなる。映画で使われた場合、そのタイヤは坂道を軽がり落ちて角がなくなった石のごとく回り続け、物語を次、そしてまた次の展開へと転がしていく。転落と見紛う危なっかしさでひた走る車はさながら、ぽっかりと黒い口を開けた奈落へと吸い込まれていく棺桶のようだ。

本作『シンパシー・フォー・ザ・デビル』において地獄への案内人となるのは、悪魔的な魅力を湛える我らがニコラス・ケイジ。いきなり訳も分からず彼と同じ車にふたりきり、観客としてこれ以上の特等席はないが、主人公デイビッドにとってこれ以上の災難もない。デイビッドは出産まで秒読みの妻のため病院に駆けつけるが、せっかく着いた病院の駐車場でケイジ演じる謎の男に脅され、目的も目的地も分からぬまま再び夜の街に繰り出す羽目になるのだ。薄いガラス1枚隔てた外にはラスベガスの喧騒。デイビッドは、何もかもが不明の男を出し抜いて、愛する妻の元へたどり着けるのか? 命を懸けて……いや、ベガスだけに命を賭けて。

「謎の男」と呼ぶのは面倒なので、ここではいっそ「ケイジ」と呼んでおく。それだけ、この謎の男は我々が求めるケイジを体現しすぎている。なぜだか彼が燃えたぎらせている怒りの炎の具現化なのか、珍しい赤髪での登場だがこれも非常にキマっている。ケイジは、銃をちらつかせながらデイビッドの命乞いを「ありきたり」と切って捨てる悪魔のような男で、家族を想う普通のデイビッドのことが理解できないらしい。ベラベラと本当なのか嘘なのか分からないエピソードをまくし立てては、デイビッドと観客を混乱させる(『ダークナイト』のジョーカーを思い出した。ケイジ自身はスーパーマンを演じるはずだったのだが)。全編にわたってケイジ本人のお家芸であるブチギレ演技が炸裂しており、そのせいで時々スリラーの枠をはみ出してコメディになりかけている(もうなっている?)が、そのスリリングさがまさにケイジらしくてたまらない。

不憫なデイビッドを演じるのは、苦労人の役がよく似合う『サイレントナイト』のジョエル・キナマン。ケイジとは「ジョン・ウー監督と仕事をした」という共通点があるが、いかにも生真面目そうなデイビッドは当然ケイジとは正反対のキャラクターだ。どんどん病院から遠ざかり、暗闇に向かって夜のドライブを強いられる彼にはシンパシーを禁じ得ない。何でも知っているような口ぶりのケイジは、人間ではなくもしかして本当の悪魔なのか? 見終わってみると、シンパシーでなくエンパシーを感じるべきだった気もするし、捻りがきいているのかきいていないのか分からないストーリーだが、まあそれも当然だろう。悪魔がいる地獄へ至る道は一方通行なのだから。

【ストーリー】
ある夜、実直な会社員のデイビッドは、愛する妻の出産に立ち会うため、ラスベガス中心部の病院へ車を走らせていた。ところが病院の駐車場で、見覚えのない男が後部座席に乗り込んでくる。「車を出せ」。拳銃を突きつけられ、やむなく指示に従ったデイビッドは、ハイウェイを走行中にあの手この手の脱出策を試みるが、非情にして狡猾な男にことごとく阻まれてしまう。支離滅裂な言動を連発する正体不明の男は、なぜデイビッドに異常な悪意を向けるのか。やがて狂気を剥き出しにした男の暴走はエスカレートし、さらなる大惨事が勃発するのだった。

【キャスト】
ニコラス・ケイジ、ジョエル・キナマン 他

【スタッフ】
監督:ユヴァル・アドラー

 

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